1章の21
「ブッチよ、可及的速やかに全軍に対し進軍停止命令を出せ!」
「至急手配いたします。失礼。」
ホホーさんの指示にブッチさんが素早く反応する。
廊下の窓を開けブッチが飛び出していく。
ビックリして窓の外を覗き見たがすでに人影はどこにもなかった。
うちの村のゼンゾーさんみたいだな。ちなみにゼンゾーさんは瞬きしたら消えてしまう。
「軍部の動きを把握していなかった私の責任だ。天騎士筆頭殿を甘く見ていた!」
悔しそうに歯噛みしているがこればっかりは仕方ない。まさか進軍がホホーさんの指示じゃないとは誰も思わなかった。
「今は悔やんでも仕方あるまい。あとはブッチに任せるしかないな。・・・クソっ!」
ああ~、ホホーさんのストレスが~。
「アレン殿、地下牢に急ごう。もしかしたらアゴーも何か関わっているかもしれん。」
「そうなんですか?牢屋の中なのに。」
「今思えばアゴーを捕らえたとき、いやにあっさり捕まった気がするのだ。何かを企んでいる可能性がある。」
う~む。嫌な予感がするな。
「急ぎましょう。」
俺たちは足早に地下牢に向かった。
地下牢の入り口の前には兵士が二人立っている。
いやよく見ると細い棒が腰のベルトの後ろから地面に突き立っている。
座っているのと同じだな。立ってるふりをしているのか。
うまくさぼっているなぁ。
「これは陛下。このような場所にどのようなご用向きでしょうか。後ろの方々はお客様ですか?見ない顔ですね。」
入り口の右側に立っている40歳くらいの髭が似合う兵士が話しかけてきた。
「内密で奥に用がある。急ぎだ。」
「了解しました。ではこれに触れて認証をお願いします。」
左側に立っている30歳くらいの兵士が手形のついた本を差し出し入り口の前にある台座に置いた。
「あら、本人確認用の魔道具ね。古いけど信用度の高いタイプだわ。」
さすがミア。魔道具マニアなだけのことはある。本業が薬師だということを忘れそうになるな。
ホホーさんが本に手をかざすと突如老婆が現れホホーさんの手の甲の部分に釘とハンマーを当てる。
「合言葉は?一度間違えるたびに振り下ろしてあげるからね~。ヒヒヒヒ~。」
なにそれセキュリティー怖いんだけど。
「ゴホンッ。あー『裏庭には2羽庭には2羽にわとりがニヤニヤしていたのでついカっとなって焼いた。今ではモグモグしている』」
国王が変な呪文を唱えている。滑稽だね。にわとりなだけに。なんちて。
「認証できたよ。ヒヒヒヒ~。」
ホホーさんがすごい勢いで本から手を放すと同時にハンマーが釘を打った。すると釘が本に打ち付けられる。
「ちっ。認証完了~。ヒヒヒヒ~。」
老婆の声が舌打ちをすると、ハンマーと釘が消えてなくなった。
「お疲れ様です。認証が完了しました。」
「うむ。では皆の者行くぞ」
兵士が道を開けて入り口に入れるようになった。
どうやら釘を躱すまでが認証のようだ。2段階認証だね。怖っ。
入り口の奥は螺旋階段になっており地下深くまで続いている。
ここを降りていったら牢獄があるのかな?
よし、行ってみよう。
「あらやだ、長そうな階段ね。」
覗き込んだミアが開いた胸元から一枚の紙を取り出した。
あの模様はたしか召喚術式か。
なにを呼び出すのかな。
紙に書かれた模様、『魔方陣』と呼ばれる術式が輝くとミアの手には一本のほうきが握られていた。
「なにそれ、掃除でもするのか?それとも実は武器とか?」
「違うわよこれは移動用。」
ミアがほうきに乗ると体が浮かび上がった。おお、すごい。けどなんでほうき型?
「昔読んだ本の物語の中にこういうシーンがあったのよ。だから作ってみたの。いいでしょ♪」
嬉しそうにそこらを飛び回る。よっぽど好きな物語なんだな。
「飛ぶのなら私もできますよ。」
イヌーオさん・・・。まさか・・・・。
「ふうぅぅぅぅ・・・・はぁっ!!」
イヌーオさんの体が浮き始める。すごくゆっくりと飛び始めたのだが・・・。
「すみません。ちらちら不快なものが目に入るのでやめてもらませんか?」
ムキムキのおっさんがスカートで空を飛ぶと最悪の結果になります。
「なんだ、魔道具か!?どういった力で飛んでいるのだ。」
ホホーさんが驚いている。
「ああ、あれは愛の力だそうです。」
「愛の、力だと!?ううむ・・・愛か。」
愛の力で空を飛ぶとか理解できないよね。
「・・・・美しいな。」
ひえ。
何かを理解してしまった様子。そうだった。このおっさんはムキムキ好きだった。
あああ頬を染めないで~。
「先を急ぎましょう。ささ、早く。ほら早く。」
はよ行こう。
えっちらおっちらと階段を下りる。
10分くらい下り続けるとやっと底が見え始めた。
ものすごく深いな。どうやってこんな深いところまで掘ったのかな。
一番下まで着くとそこから一本道の通路が続いている。
この通路の先が牢獄か。・・・・・あれなんか人影が見えるぞ。こんなところに誰が・・・。