1章の20
結局、本は体から離れなかった。
でも体のどこかに引っ付けていれば手からは離れるみたいなので頭の上にのせている。
片手がふさがれると不便だからね。
見えないように服をまくって背中かお腹に入れて隠すのも一瞬考えたけど、しゃべる本を入れるの がなんか嫌だったから頭の上にのせた。
「国王陛下、私はここで失礼させていただきます。カタナお姉様のところに急がねばなりません。」
序列2位の副官、ユーリ・マリーアさんだっけか?
彼女がホホーさんに話しかけてる。
「うむ、そうだな。特に引き留める用事はない、か。」
一度うなずいてからユーリさんに告げる。
「ではカタナ殿に伝言を頼む。ダンジョン攻略が一段落したら城に顔を出せ、とな」
「かしこまりました。ああ、急いでカタナお姉様のところに戻らねば。間に合わなくなる・・・。」
なんか焦ってるみたいだな。
「むむ、なにか心配事でもあるのか?」
「お姉様分を、早く、補給しなければ・・・発作が!」
お姉様分ってなによ。新たな栄養素?
「勅命である。はよ帰れ。」
ああ、ホホーさんの目から光が消えてるぅ。
「では失礼いたします。」
お姉様ぁ~とか叫びながら去っていった。早くお姉様に会えるといいね。
「では地下牢に向かうとしよう。ついてまいれ。」
残った全員で地下牢に向かう。地下牢は城の東の塔にあるらしい。
そういえばちょっとホホーさんに聞いてみたいことがあるんだった。
「ホホーさん質問いいですか?」
「なんだ?」
「なんでホホーさんは天騎士四天王の人達と交流が無いんですか?」
国王なのにおかしくない?
「私はあらかじめ仕組まれた革命によって急遽国王になった。天騎士たちは革命には参加をせず傍観を決め込んだのだ。そもそもメカッケ国王の時代から王の権力は地に落ちていた。天騎士たちは実力はもとより権力も強くなってしまった。本来国が転覆してもおかしくない事態なのだが天騎士筆頭『龍滅』ランド・クエイカー殿が騎士たちをまとめ上げてくれたおかげで革命が成功したのだ。」
ふーむふむふむ。
「国王として日が浅いうえものすごい数の仕事が放置されていてな。というか彼らの事は書類上でしか情報もなく、ようやく今日初顔合わせだったのだがな。といか一人でずっとこもりきりで仕事してたから最近はストレスで胃が痛い。なのに天騎士四天王の一人とも会えないからさらに胃が痛い。そしてそこに神の村の神子が現れて私の胃はサンドバック状態だ。ブッチの家族の話を聞いているときの私の心境が分かるか?」
「心中お察しします。」
国王が就任早々死にそうな件。
「いや・・・アレン殿に当たっても栓無き事よな。すまない。ほかに何か質問はあるか?」
あ~そうですね。
「女関係で国が傾いたとのことですが、ホホーさんは奥さんとかいるんですか?」
妾とかもいるんですかと遠回しに聞いてみる。
「いや、妻を娶る気はない。私が引退したら王家の血を絶やさぬように我が姉の子が継ぐ予定となっている。」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そもそもそれこそが私が王に選ばれた理由なのだ。」
というと?
「私は男が好きだ。ムキムキの男にしか懸想をせぬ体質でな。」
「ひぇ」
「それゆえ女性問題が起こりようもない私が国王になっている間に少しでも国力を回復させるのだ。」
「この国、闇が深過ぎませんか?」
もう滅ぼしちゃえよ。一回。
「まぁ、民の為にもここで踏ん張らなくてはいけない。それが王の血筋に連なる者の使命だからな。」
「へぇ立派ですね。でもなんでそんな立派なホホーさんは他国への侵略なんて考えているんですか?」
「何?侵略?何のことだ。」
ホホーさんが本気で驚いている。
「え?だって、イヌーオさんがうちの村に来た理由が戦争しに来たって言ってたから。」
「なに?!どういうことだイヌーオ!」
そうだそうだイヌーオさん。どういうことだ。あといつまでドレス姿なんだ。着替えろよ。
「はっ、私は陛下の命令通りに派遣された騎士たちと共にアレン殿の村に向かいました。」
「私からの命令だと!?誰から支持を受けた!」
「はっ、天騎士筆頭ランド殿であります!」
・・・・・・・・神様、何か暗躍の匂いがします。