1章の16
「前国王アゴーは妾を50人作り国庫から手ぎれ金を払っていたことが判明しました。」
ホホーからの衝撃の告白。
なるほど前国王アゴーは間違いなくメカッケの血を引いていたのだろう。と一同全員が納得した。
「故に私ホホー・ナグラ・レール・ゼストが宰相ブッチと手を組み革命を起こしたのです。」
ホホーが話を続ける。
「革命は宰相ブッチを主導に行われました。詳細はブッチから説明していただきましょう。」
アレンがうなずきブッチに視線を向けた。
「許す。全員おもてを上げよ。発言も許す。ブッチ、詳細を説明せよ。」
ブッチが顔を上げる。
「はっ。では皆様こちらをご覧ください。」
ブッチが懐から眼鏡を取り出し顔にかける。すると眼鏡から光が放たれ空中に像を結び始めた。
ミアがそれを見て驚いている。
「これは、映像を空中に写している・・・。いえ空中の魔力を凝縮しているのね。でも眼鏡型の意味は何なのかしら。ねぇ、ブッチさん。それってあなたから映像は見難いんじゃないかしら?」
「ミアよ、考察は後程にせよ。ブッチ続きを頼む。」
(あら、アレンったらそろそろ時間切れが近いのかしら。)
ミアが何かに気づいたようにアレンを顔をうかがう。
「分かりました。では説明をさせていただきます。」
皆が空中に映し出された映像に注視する。
女性の顔が映し出される。100人近くいるだろうか。
「こちらがアゴーのクソやろ・・・・・ゴホン。失礼。前国王陛下が手を出した女性の数です。通常
国王ともなれば跡継ぎを作るために複数の女性と関係を持つことは問題とされません。」
国の将来を考えればおかしいことはない。過去には第16王子とかも確認されている。
「しかし、このうちの50人は人妻です。」
「な、に・・・・!?」
アレンは驚愕した。
アレンの村(通称神様の村、正式名称・村)では不倫はご法度である。
不倫をしたものは神の力により罰せられる。
未亡人や結婚をしていなければ問題ない。
ちなみにお酒を飲んだりしながら楽しくおしゃべりするお店はある。だが本番はダメ。
過去には数人の罰則者がおり、体中の毛が抜け落ちる呪いにかかったり、呼吸が口ではなく尻から しかできなくなる呪いにかかった者もいたらしい。
「50人と・・・・・不倫!?そんなの・・・・そんなの・・・・ふひゅう・・・。」
アレンは気絶した。
「あら、アレンったら気絶しちゃったわ。ほら、起きてアレン。村とこの国ではルールが違うのよ。起きなさい。」
ミアがアレンの頬を叩き覚醒を試みる。
「起きないわね。よっぽどショックだったのかしら。ほら、ぼうっとしてないでみんなも手伝って!」
「あ、ああ。皆の者、アレン殿を起こすのだ!」
ホホーの号令で皆が色々な方法でアレンを起こそうとした。
一時間後。
「っは!?」
アレンが目を覚ました。
「僕は・・・気絶していたのか・・・。」
「ええ、そうよ。気分はどう?頭を打ったりはしていないと思うのだけど・・・。」
ミアが心配そうな目で見ている。
「ああ、少しぼーっとするけどそれは大丈夫だと思う。ありがとう。」
ミアに笑いかける。
「ふすぃっふ!」
ミアが変な声を出し顔をそむける。
「?・・・・ああ、そうだ。説明の途中でしたね。話を途中で遮ってすみませんでしたブッチさん。」
「いえ・・・・・・・・こちらこそすみませんでした。本当にすみませんでした。」
ブッチが深々と頭を下げる。
「?・・・いやそんなに謝らなくてもいいんですよ。実は俺、婚姻や不貞については神様から特に厳しく教育を受けてまして。不倫とかにちょっと敏感に反応しちゃいました。」
ははは、と情けない笑みを浮かべるアレン。
その瞬間、ぷぴー、と音が聞こえた。
「びゅっふんん!」
イヌーオさんが膝から崩れ落ちた。
どうしたんだろう。耳を抑えたまま顔を伏せている。
「あ、そうだ。ホホー国王様。さっきはつい神子としてのスイッチが入ってしまい失礼な態度をとってしまいました。申し訳ありません。」
立場的なものはともかく年上の人に命令口調はいささかやりすぎただろうか、と心配になりホホーを振り返る。
ホホーは一瞬びくっと体を震わせたあとおもむろに土下座した。
「皆には責任はない。私一人が責任を取る。この者たちは大事な我が国の民なのだ。どうか、どうかこの首一つで許しては貰えぬだろうか。」
顔を上げたホホーは泣いていた。
「えぇ・・・いきなり何を言ってるんですか。」
困惑するアレン。
「とりあえず皆さん座って下さい。俺が気を失っている間に何かあったんですか?」
みんなが自分の席に戻る。
ミア以外全員目を背けていた。
「ミア、何かあったのか?」
ミアは真顔で答えてくれた。
「私たちは貴方の目を覚ますために頑張った。ただそれだけよふすぃーっひ!」
ミアがまた目を逸らして全身を震わせている。
「腹筋が・・・腹筋が・・・ブレイクダンスぅ・・・・。」
なにか小声で言っているが何のことだろう。と、ふと窓を見た。
空は日が陰り、窓には大会議室の様子が反射して移っている。
その中にひときわ目立つ格好の男がいた。
その格好をした男は頭に奇妙なライオンの被り物をしていた。その被り物の口から舌を出しおり 『クマったね』と書かれている。
上着は何も着ておらず、下はスカートだけはいている。
体にはいろいろと落書きをされており、お腹に大きくブレイクダンスと書かれている。
その変な格好をした男と窓越しに目が合った。
さっきまでぼーっとしていた頭が一気に晴れた気がした。
それは紛れもなく俺だった。
そして周りを見回した。
皆がアレンと目を合わせないように逸らしている。
アレンはすべてを理解し、微笑んだ。
「みんな、何があったか話してくれるね?」
アレンの鼻の穴に刺された縦笛がぷひぃ~と一つ音を奏でた。