1章の14
場の空気が変わった。
誰かの呼吸の音すら聞こえてこない。
周りは静まり返っている。
「我はアレン。神の代行者としてこの場に降臨せし者。わが言葉は神の言葉。わが意思は神の意志と心得よ。」
その場にいる全員が言葉を失っていた。
目が離せない。声を出すことはおろか呼吸すら許されていないように感じる。
「皆の者何をしている。・・・・・・頭が高いぞ。」
ザッ!と一つの音が聞こえた。
全員が一斉に跪いたのだ。
強制的に、だが無理やりではない。
全員が己の意志で頭を垂れている。
(なんだこれは!?私は王だ。一国の主としてここに立っていたはず。なのに、なぜ、頭を上げることすらできない。いや、あげようとすら思えない!?)
ホホーは感じていた。これは精神に直接作用する命令。肉体が自分ではなくアレンの命令に従って いるように錯覚している。
ミア以外すべての者が困惑していた。
なぜか分からない。分からないが理解してしまっている。
(この方こそ本物の神の代行者。人類ごときが逆らっていい存在ではない!)
ただ神託を待つだけの存在として自分たちはここにいるのだ。
「楽にせよ。」
全員が思い出したかのように呼吸を始める。
「発言を許す。代表は・・・ホホー、汝とする。」
ホホーの額にびっしりと汗が浮いている。
自分よりも偉い存在、しかも頭を上げることすらできない存在などとは初めての邂逅である。
(神の代行者とはこれほどの存在なのかっ!!)
ホホーは困惑をしながら必死で頭を回転させ始める。
(発言、なにか言わなくては。何を聞く?質問、そうだ順序立てて最初に聞かなければならないことは・・・)
「僭越ながら、アレン殿たちはなぜここにいらっしゃるのでしょうか。謁見、いえ訪問でしたらこちらに報告が来たはず。」
アレンが懐からドアノブの神器を取り出した。
「これなる神器に巻き込まれここに転移してきた。強制的にな。」
「では事故のように偶然ここに来たのですか。」
「偶然、・・・いや・・・微かにだが上位存在の策略の気配がする。我らがここにいるのは誰かが描いた絵図、つまり計画の一部であろう。」
「計画・・・ですか。」
「そうだ。汝らにはあずかり知らぬところで暗躍している者がいるのであろうよ。恐らくは邪神。神に敵対する者だ。」
「邪神!?そのようなものが存在するのか・・・。」
「邪神の討伐が我が神から与えられし使命。当初は汝が邪神とつながりグリフォンと前国王を捕獲したと考えていたが・・・。」
「滅相もない!私はこの国の現状を憂いて革命を起こした次第。この国は滅びに向かっているのです。」
「ふむ。情報が足りないな。詳しく話せ。なぜ革命などを起こし、なぜグリフォンと前国王が牢に入れられているのか。」
「ははっ。ではすべてをお話いたします。あれはーーーーーーーーーーーー」