1章の13
「ええ、謎ですね。しかも認めたくはありませんが・・・・・・・・・・・・・私の息子にそっくりです。」
宰相ブッチと呼ばれていた人がイヌーオさんを見ながら国王様と話している。
俺はイヌーオさんの耳元で疑問をささやいた。
「あの宰相って人、イヌーオさんの父親なんですか?」
「そうです、実の父です。」
「なんで名乗り出ないんですか?」
「陛下の御前です。発言を許されておりませんので。」
「ああ、なるほど。」
相手は一国の王だ。しかも最近革命を成した過激派だもんな。下手したら処されてもおかしくない。
ヒソヒソ話も危ないかもしれない。黙っとこ。
お、国王様が立ち上がった。
「そこの者、汝はそこの宰相ブッチの息子で間違いあるまいか?」
うんまずはそこが知りたいよね。
「ははっ!私は宰相ブッチ・カマセが一子、イヌーオ・カマセであります!」
イヌーオさんが立ち上がりしゃちほこ張って名乗りを上げる。緊張しているのだろう。背筋がものすごくピーンと伸びている。
「汝が天騎士四天王が筆頭、序列1位なのか?」
「いいえ!違います!所属は第三騎兵隊、隊長であります。序列は256位であります!」
「むむ?ではなぜここにいる。序列1位の代理か?それにその、なんとういか、不快な格好はなんだ?答えよ。」
まぁ、気になるよね。ヒラヒラドレスに可愛いリボンを付けたおっさんは。
「はっ!なぜここにいるかは私もわかっておりません。この格好は前世の戦闘服であります!」
「ちょっと何を言っているか分からぬな。ブッチ、説明せよ。」
「わたしも分かりませんね。ああ、イヌーオよ。そのまま動かぬように。」
宰相のブッチさんが懐から魔道具を取り出しイヌーオさんに向ける。
あ、あれは映像記録魔道具『キャメイラ』だ。写真も動画もとれる最新式のやつだな。俺も欲しい。あ、欲しいのはとった写真じゃなくて『キャメイラ』の方ね。
「ブッチよ、何をしているのだ。」
「いえ、イヌーオが2歳の時も妻が可愛い服を着せていたな、と思い出しまして。妻に見せたらきっと懐かしくて泣いて喜ぶでしょう。」
「やめよ。奥方が泣いたとしたらそれは懐かしさや喜びではない。もっと奥方を大切にしてやれ。」
「してますよ。妻は今でも息子にドレスを買って来たりしてますからね。本気で喜ぶと思いますよ。たまに私にも着せようとしてきますし。」
「すまん。貴様の家の闇など聞きたくはない。結局何なのだ、なぜここにいて、いやそもそも天騎士四天王筆頭はどこにいる?」
国王様がすごい混乱している。イライラしているのが伝わってくるね。
「もうよい。疲れた。少し休憩を取りたい。いや、まて。最後に一つ聞きたい。」
なんだろう。あ、国王様と目が合った。
「イヌーオの後ろにいる二人。そなたらは何者だ。特に女の方。なぜこの状況で座って本を読んでいるのだ。」
あれ、ミアさん?
ほんとだ。いつの間にか座って本を読んでる。自分用にお茶を入れて飲んでるし。
「あら、漫才は終わったの?」
「なに?貴様何者だ。」
あ、国王様が訝しんでる。
「豚、説明してあげなさい。」
「ブヒン!この方たちは、かの『神の住む村』の神子様とその村に住む女性であります。」
「なに!?あの村の・・・。ん?ではこちらの男性の方が神子様であり、この女性は・・・。」
「はい、ただの村娘であります。」
「こ、この態度で村娘と申すか。」
「ははっ、ですがただの村娘であるとともにこの方は・・・。」
「むぅ、一体何者なのだ・・・?」
国王様がゴクリ、と唾をのみ込む。
「私のご主人様でもあるのです!ブヒン!」
「おいブッチ。貴様の家族はどれだけの闇を飼っているというのだ。」
「円満な家庭ですけどね。」
ブッチさんが何食わぬ顔で答えていた。
きっと当人たちは幸せなのだろう。家族っていいもんだね。でもうらやましくはないっすね。ほんと。
流れを戻そう。話が進まないし国王様の心労がストレスでマッハ状態。
まずは自己紹介からだな。
「あ~っと、すみません俺が、いえ僕?が~あーーーーっと。」
駄目だ緊張して頭真っ白になってきた。偉い人と話すとか初めてなんだよな。神様は例外。神様は偉すぎて一周回って緊張しない。威厳もないし。
「アレン、大丈夫。いつも通り神子としての貴方でいいのよ。」
ミアが優しくアドバイスしてくれる。
「貴方は神の御使いであり、神の代行者であらせられるのです。」
ミアが片膝をつき俺に頭を垂れる。
そうだ、ここは公式の場。俺は神子。俺は神子。おれは・・・。
・・・・・・・・・・・そう、我はこの大陸の神の御使いである。