1章の11
ゼスト王国の王城、そこにある大会議場に向けて長い廊下を早足に進む男がいた。
男の名はホホー・ナグラ・レール・ゼスト。
先日、この国の王を廃し新たに王座を手にした人物である。
この国の新たなる王ホホーは苛立っていた。
この国を手に入れた。
何よりも無駄なく誰よりも平和に事を成した。
自分の優秀さを誇るとともに自分こそが誰よりもこの国を正しく導けると思っていた。
ホホーは王の血を引いていた。
前国王アゴーの父が国王になる前に王妃ではなく市政の女との間に作った、いわゆる妾の子だ。
ホホーは王座を奪い取った前国王アゴーの腹違いの兄だった。
ホホーは父の命令で
『腹違いというだけで兄であり優秀な自分が日陰者になるのはおかしい。』
その思いを胸に革命を起こした。
そして見事革命を成した。
しかし、ホホーの予想に反し、国王になったことで彼は人生で最大のピンチを迎えることになった のである。
大会議場の入り口前。
入り口にはこの国の宰相が待っていた。名をブッチ・カマセ子爵という。
子爵位という貴族の中では低い爵位ながら宰相という役職についている優秀な男だ。
貴族学校に通っている時から常に主席。仕事もできルックスもいいことからファンクラブまである 才人である。
現在52歳にして「城に住むナイスミドル部門」1位を独走し続けており、部下や前国王からの信 頼厚き男である。
「お待ちしておりました陛下。会議の準備は整っております。」
「ああ、私が即位してから初めての天騎士四天王との会議だ。特に天騎士四天王とは初めての顔合わせである。この国の新たなる体制を築くためにも彼らの理解を得ねばならん。この国には無能が多すぎる。お前のような優秀な人材を多く味方につけなければならない。期待しているぞ。」
「ええ、陛下にはこの国の現状を正確に把握してもらわなければなりません。今回はその為の会議です。では参りましょう。」
ホホーが大会議室に入ると丸い円卓が置かれていた。その円卓を囲む6つの席のうち4つの席は埋まっている。
その埋まっている4席の内の3席に座る者たちが席を立ちホホーに頭を下げている。
しかし1席だけ座ったままの者がいる。自分に対する反意からだろうか。見極めなければならな い。
空いている席は国王であるホホーと宰相ブッチの席である。
宰相ブッチが席を引き国王であるホホーを座らせてから自分の席へ座る。
起立している者に着席を促してから心を落ち着ける。
ホホーが天騎士四天王を見渡しゴクリと生唾を飲み込む。
天騎士四天王は今回の革命に参加してはいなかった。
ホホーにとって敵でも味方でもない中立の立場をとっていたためだ。
ホホーはこれを最大の好機と捉えた。もし天騎士四天王が革命に敵として立ちはだかった場合、到 底成功することは叶わなかっただろうからだ。
彼らの逸話は枚挙に暇がない。
『赤竜討伐伝説』『高レベルダンジョンソロ踏破』『大地を割り湖を作った』『1万の軍勢に匹敵 する強さ』『雨雲を切り裂き虹をかけた』『宝くじに5回当たった』『動物園の動物すべてに求愛さ れている』『デコピンのみでトンネルを開通させた』『ホモ疑惑』『百合疑惑』『子供用絵本で号泣してた』『箪笥の角に指をぶつけて年中骨折している』『趣味が国王いじ め』など様々に語られている。
ホホーは実際に誰ともあったことが無い為、噂しか聞いたことが無いが実力は確かだというのは間 違いない。会議場は異様な緊張に包まれている。
「それでは会議を始めます。手元の資料を見る前に今回国王陛下が初顔合わせの為、まずは自己紹介からお願いします。」
ブッチが司会を務め話を進める。
「ではまず、序列4位『癒しの天騎士』ユビオリオン殿」
一人の男が席を立つ。ひょろひょろのもやしのような男だ。
ざんばらな髪の毛に分厚い眼鏡をしている。弱そうだ。初見では騎士だととても思えない雰囲気だ。
「ご紹介に上がりました『癒しの天騎士』ユビオリオン・・・・・の代理の者です。」
ホホーが驚き声をあげる。
「代理だと!?新国王である私との初めての謁見であるぞ!なにゆえ代理などを立てたのだ、説明いたせ!」
「申し訳ありません。実は・・・先日箪笥の角に指をぶつけ右足の薬指と小指を骨折。その影響で40度の熱を出し寝込んでいるためドクターストップがかかりました。ちなみに私は主治医です。」
ホホーは逸話の一つ『箪笥の角に指をぶつけて年中骨折している』天騎士四天王がいることを思い出す。
『癒しの天騎士』ユビオリオンこそがその逸話の人物だと理解するとともに疑問が二つ浮かんできた。
「しかし『癒しの天騎士』と呼ばれるほどだ。高位の癒しの加護が使えるのではないのか?自分で治せばよかろう。そもそもなぜそんなに箪笥の角に指をぶつけるのだ?」
「え~とですね、今回ユビオリオン殿は骨折と同時に失神、のちに高熱を出してしまい意識が朦朧としているせいか加護は使えない状態です。あとユビオリオン殿の加護は回復系ではございません。彼の異名の『癒し』とは周りが彼の性格に癒されていることからつけられたらしいです。」
「マスコット的な意味だったのか。」
自分が勘違いしていたことにホホーは驚愕した。あと紛らわしいなとも思った。
「それから箪笥で骨折の件ですがシーガレオン殿いわく『箪笥が襲ってくるのだ』とのことです。詳しくは誰も知らないみたいですね。」
「ううむ、謎だな。ものすごい気になるが、まぁそういう事情なら仕方がない。あいわかった。では次の者に行くとしよう。」
ホホーがブッチの方を向き次を促す。
「え~ユビオリオン殿、体調不良で欠席と。では次、序列3位『大地の天騎士』マタタタタービ殿。」
大地で天騎士とか少しだけややこしいなとか思いながらホホーは目を向ける。
そこには一介の兵士とういか門番のようなものがおり立ち上がる。
「すみません!わたしは一介の兵士であり門番です!」
一介の兵士であり門番だった。
「一介の兵士であり門番がなぜここにいる?」
「ははっ。マタタタタービ様は来ておられるのですが城に入れず立ち往生しておられます。」
「どういうことだ。詳しく説明いたせ。」
「ははっ。ではそこの窓から外をご覧ください。」
一介の兵士であり門番が指さす窓から外をのぞく。やけに鳥が多い気がする。
「下に城門が見えますでしょうか。」
「城門?うおっ!すさまじい数の動物が集まっておる。騎士たちも入り乱れておるようだが。」
「はい。マタタタタービ様が来られた際、たまたま動物園の動物が逃げ出し彼に求愛を始めました。危険なため城に入ることを一時的に停止させていただき、他の騎士と共に動物をなだめているところです。」
「むぅ、それならやむを得んな。」
騎士が50人くらいで動物をなだめている。
動物園から逃げたというなら傷つけるわけにもいくまい。
「ちなみに群青色の髪の騎士がマタタタタービですよ陛下。」
ブッチが指を差し教えてくれる。
「あのトナカイをなだめている者か。」
「いえ、それは紺色の髪の衛兵です。」
「ややこしいな。ではあのヘラジカの横の男か。」
「いえ、あれは藍色の髪の従騎士です。」
「ややこしいな。ではあのカモシカの上に乗っているヤツか。」
「いえ、あれは縹色の髪の騎士で貴族の三男坊・・・」
「縹色!?初めて聞いたわ!ええぃややこしい。マタタタービはどれなのだ!!」
「陛下、マタタタービではなくマタタタタービですよ。タが一つ抜けております。たぬきですな。」
「マタタタタービかややこしい名前だな。」
「たぬきが過ぎると猫が好きそうな名前になりますな。」
「これ以上やめよ。ややこしい。」
「ちなみに私の息子にイヌーオという名前の者が・・・。」
「やめぃと言うとろーが!結局マタタタタービがどれか分らんかったわ。もういい、次に行くぞ。」
「かしこまりました。次は序列2位ですね。では席にお戻りください。」
「うむ。若干嫌な予感がするが頼む。」
二人が着席すると一介の兵士であり門番の男の隣に座っていた女性が立ち上がった。
「申し訳ありません陛下。私、お察しの通り代理です。」
「ほらな、そんな気がしていたのだ。で、そなたは何者だ。女性ながらに騎士の鎧がサマになっている。騎士職に就いている者か?」
「はっ。我が名はユーリ・マリーア。序列2位『切断の天騎士』カタナ・サヤお姉様~の腹心であります。」
「おお、序列2位は女性であったか。・・・お姉様~?」
「そうです!お姉様です!誰よりも強く!気高く!!美しい!!!カタナお姉さまぁああぁぁあぁああぁあぁぁぁぁぁ・・・・・は現在ダンジョン踏破中の為、私が代理ではせ参じました次第です国王陛下。」
「途中から我に返り国王である我の御前だと思い出したゆえ、一瞬で取り繕ったところは評価しよう。不問とする。」
「ありがたき幸せ。」
「ところでもし我とカタナ嬢が敵対した場合そなたはどちらに着く?正直に申してみよ。」
「カタナお姉様以外死ねばいいと思っております。日頃から。常々に。」
「んんっん。正直に申したゆえ不問とする。」
「ありがたき幸せ。」
「カタナ・サヤは部下に慕われているな。正直うらやましいぞ。天騎士四天王の紅一点か。ん?そういえば逸話の中に『百合疑惑』・・・あっ(察し)」
「カタナお姉様は最高の女性です。」
「・・・・(ゴクリ)きっと素晴らしい上司なのだな。あい分かった。」
「言葉を飲み込む度量の深さ。まさに王の器。」
ブッチが優しい顔でホホーに話しかける。
「ご立派ですぞ。」
「うるさい黙れ。もういい最後だ。序列1位に行くぞ。どうせ代理だろうがな。」
「わかりました。」
「その前に先に言っても良いものだろうか。」
「はぁ、何がでしょうか。」
「なにゆえ序列1位殿はヒラヒラの可愛らしいドレスを着ているのだ?見た感じおっさんであろう。」
「ええ、謎ですね。しかも認めたくはありませんが・・・・・・・・・・・・・私の息子にそっくりです。」