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護衛任務――チャンスは一度

 翌日。


「で? 何でこうなるんだ」

「えー、だって」

 二人は十数名の冒険者と共に(アケシュナー)を出発、一台の大型馬車を取り囲むようにして北へ進行中だ。


 任務(ミッション)は護衛。

「いちおう、私、冒険者だし」

 何故か得意そうなリーン。



 ――そう、それなんだよ(・・・・・・)。全く、こいつは。

 ファンテは溜め息を漏らす。



 この世界、職業冒険者は資格(ライセンス)制である。普段勝手に冒険者(そう)だと名乗るのは構わないが、組合(ギルド)から仕事を受ける場合は資格が必要となる。



「まさかお前が資格持ちだとは」

「ふふふ。凄いでしょ」

 彼女は黒いマントを羽織っており、腰には小型剣(ショートソード)を帯びていた。



「て言ってもどがつく初心者(ノービス)だけどね」

 彼女によれば、何かの役に立つかと思って取得しておいたのだそうだ。



 基本的に組合の仕事は危険を伴うものが殆どだから、今日までやるつもりはなかったらしいが。

 因みに、ファンテは中級者(シニア)

「もう長いんでしょ? 熟練者(ベテラン)にはならないの?」

「やだね。面倒臭い」

 当然ランクが上の方が報酬も良い、が、作戦の指揮を()ったりしなくてはならず、責任も重い。





「あはは。ファンテらしいね」

「お前達、静かにしないか」

 頭の上、騎馬から声が飛んでくる。今回の作戦を指揮する熟練(ベテラン)冒険者だ。

 二人は曖昧に笑ってごまかした。













 さる重要人物をサリバンの街へ護送するのが任務だ。

 帯同人数が多いのは、念の為と言うこともあるがどうやら本当に生命(いのち)の危険があるらしい、とファンテは聞いている。

 だからリーンを連れて来たくはなかったファンテだが、一人で行けば、また怒られてしまう。




 サリバンは(アケシュナー)からは三日の距離。酒場(バイト先)はしばらく休ませてもらうことにした。



 二日目まで何事もなく過ぎた。サリバン迄はあと半日。

 その日の夜。

 「っあー。何でこんなことまで」



 リーンは天幕(テント)の設営中だ。護衛対象はかなりの大物らしく、天幕も豪華。



 「我慢しろ。俺達は護衛兼雑用だ」

 ファンテは馬車から荷物を下ろしている。



 見晴らしの良い荒野。

 渡る風の音が不穏だと感じるリーン。

 「――何だか、嫌な感じ」



 「そこのお前! 手を止めるな」

 「は、はいっ」

 リーンは慌てて作業に戻る。

 ファンテはそれを溜め息混じりに見つめた。










 

 それは真夜中だった。

 普段は赤、青、緑の三連の月が昇るのだが、この日は雲がかかって青と緑の月が見えなかった。



 その所為(せい)で今宵の世界は少し――赤い。



 突然の来訪者だ。

 見張りの冒険者達が声を上げる間もなく、どこからともなく辺り一帯に火矢が射掛けられた。


 「敵襲! 敵襲っ」

 流石(さすが)は手慣れた冒険者達、瞬時に装備を整えて護衛対象を天幕から連れ出す。

 だが、辺りは既に火の海、赤き月の世界に炎が妖しく――燃える。







 「行くぞ! こっちだ!」

 火の手の及ばない中央に全員で移動する。

 それを見越していたかのように前方の暗闇から十人を超える敵が現れた。


 「い、いかんっ」

 「イズナルト! 覚悟!」

 「今日がお前の最期だ!」

 護衛対象――イズナルト、と呼ばれた初老の男は、従者や冒険者達に周りを固められながら毅然とした(おも)()ちで視線の先にいる敵を見据え、叫ぶ。

 「お前達! 恥を知るがいい!」




 「貴様こそ!」

 じりじりと間合いを詰めながら、両者は睨み合う。






 ――ど、どうしよう。

 出遅れたリーンは冒険者達の輪に加わり損ね、後方からその光景を呆然と見守る。リーンの握りしめた小型剣(ショートソード)が月に赤く閃いた。ぱちぱちと(くさむら)を焼く火の音が、生命(いのち)の危険を濃密に感じさせる。




 「うおおおおっ」

 十人以上の敵が一斉にイズナルトやファンテ、冒険者達に襲いかかる。





 ――いけない!

 リーンは標的を定め、気絶レベルの音波を全ての敵に飛ばした。


 彼らは十人以上居た、が。

 全てが音もなく、まるで、とつぜん魔力が切れたゴーレムのようにその場に倒れ込んだ。 


 「な、何だ?」

 「一体、これは――」

 「か、神の御業(みわざ)?」





 「リーン、大丈夫か!」

 イズナルトを守る輪からいったん離れ、リーンの側に駆け寄る美しき青年。





 「何ともないよ。ファンテは?」

 「いやまあ、あれじゃなあ」

 ファンテは(きびす)を返して彼らを見た。



 何が起きたのか分からず、倒れている(テロリスト)を遠巻きにする冒険者達の姿。


 「やりすぎた?」

 「どうだろう……」

 ファンテが頭を掻いた。





 「とにかく後片付けだ。お前はそこを動くなよ」

 彼はリーンから離れ、輪に戻ろうと――。


 「娘、何をした」

 「? きゃあっ」

 リーンの背後、赤く照らされた闇夜から現れた敵の一人が、彼女を後ろから羽交い締めにした。




 「こいつ、いま何かしたぞ! 仲間達が、それで――!」

 同様に現れた別の男が叫ぶ。



 ――嘘。全員じゃ、なかった……?

 ぎりぎりと締め上げられ、彼女の両足が地面から浮き上がる。





 異様な気配、振り返るファンテ。目を見開き男につかみかかろうと走り寄る。

 「その()を離せっ!」

 「おっと、そうは行かない!」

 向かってくるファンテを先程の男が殴りつけた。動揺しているのか、いつもの身体のキレがないファンテはまともに(もら)ってしまう。

 「ぐぁっ」

 続けて二発、三発――四発。ファンテはリーンから少し離れた場所で膝から地面に崩れ落ちる。


 ――ファンテ、ファンテ!


 そうこうしている内に、リーンの後ろから新たな敵が続々と現れる。どうやら万一の場合を考えて攻撃陣を二つに分けていたようだ。





 「予定が狂いはしたが、問題ない。(そいつ)はまだ殺すなよ。後で何をしたのか聞きたい」

 リーダー格の男が、リーンを羽交い締めにした男とすれ違いざま声をかけていく。



 賊共は地面に転がるファンテに蹴りを入れながら、その先の冒険者達に近付く。

 「さあ、イズナルトを()れ!」

 最終的に十五人の賊が号令に合わせ駆け出す。







 剣と剣のぶつかる金属音、雄叫(おたけ)び、怒号。

 しばらくもみ合った後、敵が優位に立った。

 「お、おのれ……っ」

 冒険者達のリーダーが歯噛みする。



 「どうした、こんなものか冒険者共!」

 身のこなしから言ってただの賊ではないとリーダーは思う。

 ――相当な修練を積んでいる。

 冒険者達やイズナルトの従者は、一人、また一人と倒されていく。




 (またた)く内に冒険者は残り四人。敵も倒れてはいるが、数的不利は圧倒的に冒険者だ。彼らは肩で息をしながら、それでも何とかイズナルトを背後に隠す。




 「な、なんと言うこと……!」

 凶刃(きょうじん)(たお)れた自分の従者、冒険者達を悲しみの目で見つめるイズナルト。

 「さあ! 観念しろ、背教者がっ!」

 振り上げられる剣。






 ――駄目、声が……!

 締め上げられているリーンは喉が圧迫され、音の攻撃が出来ない。視線の先、リーンの足下で倒れているファンテはぴくりとも動かない。





 ――どうしよう、このままじゃ……!

 力を振り絞るリーン。だが、後ろの男を振り切れない。




 「大人しくしろっ、殺すぞ、小娘!」

 それまで前を向いていた男が俯いて恫喝(どうかつ)する。こいつぜったい許さない、とリーンが思った時、それまで押さえつけられていた圧がとつぜん霧散する。身体が軽くなり、自由を取り戻した。




「え……?」

 見上げたリーンは不思議そうな顔の男と目が合う。



 額には突き立てられたナイフ。

「こ――こんな……」

 後方へ男は倒れていく。

 リーンはすとんと地面に立つ。



 ――な、何がどうなって……?

 いいえ、考えるのは後よと前を向く。




 ――よくもっ。

 大きく息を吸う。

 相手はおよそ十人。だが、造作ない。

 全員の耳に、狙いを付けて。




 【ブ ラ ッ ク ア ウ ト】




 「う」

 「あ?」

 「は……?」



 どさどさどさ。



 敵がささめきと共に全て昏倒した。



「これはさっきと同じ……」

「た、助かった、の?」

 呆然と見つめる冒険者達。




 ――あ……。

 リーンは、地面に倒れたままぼろぼろになった顔でこちらを見つめるファンテに気付く。


 ――そうか。

 さっきのナイフは彼が投げたのだと気付く。


 走って近づき、顔の辺りにしゃがみこむ。

 「大丈夫? いつもありがとうね」


 「悪かったな。いや、投げナイフが一本しかなくて、あいつが俺から注意を逸らすのを待ってたんだ」

 まったく、一発勝負は怖いな――ファンテは微笑む。

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