20.悩むモノ 呟くモノ
またまた結構時間が経ってしまいました。
やっと話も20話(正確には21話)です。
何度も言いましたが、更新スペースをあげていきたいです! 今回は今までより少し短め。
それではどうぞ!
魅奈と別れてから俺と立花はそのまま帰路についていた。
相変わらず立花はぜんぜん汗をかかずに、俺だけ理不尽に汗をかいている。
「なあ、立花。俺にも綻びの再構築で涼しくしてくれないか?」
「あら、何いってるの? 私がこの暑さに再構築を使っていると?」
再構築……ああ、綻びの再構築のことか。そうか、そうやって略せばいいのか。いや、略せてないような気がするが。
「ああ。だって汗を全然かかないっておかしいだろ。体質だとしても、そんな珍しい体質はほぼありえない」
テレビで汗をぜんぜんかかない人間、というのを見たことがあるが、まさか立花はその類の人間ではないだろう。
「それで、私が再構築を使っていると」
そうだ、とうなずく俺。
「…………それより、魅奈ちゃん。何か元気なかったわね」
うわっ! はぐらかされた! もうどうでもいいや、と思って俺は立花の話に乗ることにする。
「魅奈の元気がなかった?」
「ええ。貴方、一緒にいてわからなかったのかしら?」
言われて今日のことを思い返す。魅奈の勉強につき合わされてから昼飯を食べについさっきパオチャオまでいってきた。……それだけ、といえばそれだけになってしまう。
「はぁ……。どうやらわからないらしいわね。まぁ、もしかしたら私の思い違いかもしれないけれど」
思い違い、か。俺はもう一度だけ今日の半日近く魅奈と過ごした時間を思い返すが、やはりどこにも元気がなさそうだった、という場面はなかったように思える。
これでもしも立花のいっていることが当たっていたら、俺は魅奈の近くにいてあげながら全然気づけてないことになる。それは家族として、兄として恥ずかしいことだ。
「思い違いであることを祈るよ」
「そうね。私もそうであることを祈るわ、一応ね」
一応かよ……。
話が一段落したところでちょうど信号にかかって、横断歩道の前でとまる。そういえば、前はここらへんの横断歩道の信号機にムタンがいたとか。
「そういえば――」
横でとまっている立花が不意に何かを思いついたようにつぶやく。
「喉が渇いたわね」
……なんとなく目当てがわかった。用は飲み物を奢れ、ということだ。家までそう遠くはないが……さて、どうしたものか。信号が赤から青になるまでの時間を俺はそのしょうもない決断に使うこととなった。
◇
「喉渇きませんか? 榎本さん」
「ん? そうだな。確かにこの暑さじゃすぐに喉もかわいちゃうね」
榎本さんと帰り始めて、やっと商店街のところまで戻ってきた。日は傾き始めていて……とはいってもまだ昼の三時ぐらいなのかもしれないけど、とにかく時間は結構経ったと思う。
そこで、あたしはお兄ちゃんからもらったお金でもうそろそろジュースを買おう、と榎本さんに提案したのだ。
「あー、でも金もってねえや。ごめん! 魅奈ちゃんの期待を裏切って」
「は、はい?」
「いや、喉がかわいたな、といって遠まわしに俺にジュースを奢ってもらう、っていうことだったんでしょ? 年上好きな俺でも、魅奈ちゃんみたいなかわいい子にそんなこと言われたら断るに断れないでしょ? だから奢ってあげたいけど」
「いやいやいや! そういうことじゃないですって!」
「あり? そうなの?」
首を縦に強く振ってあたしは意思表示をする。
なんだか榎本さんの言い方だと、お金がないから奢ってあげられない、というようなことを巧みにごまかしているような感じにも聞こえないことはないけど、きっと榎本さんは本心からそういうことをいってるんだろうな、とあたしは思う。
「実はちょうど二人分ぐらいのジュース代持ってるんですよ。ですから、あたしが奢りますよ」
「えっ!? 本当に!?」
榎本さんは無邪気な子供のように目を爛々と輝かせる。
「はい。もちろんです」
「やったーー! なに? これはまさかフラグかなんかかーーー!?」
あはははは、と少し苦笑しながらあたしは近くに自動販売機がないか探す。
まあ、商店街なのだから三秒とかからずに自動販売機は見つかって、あたしと榎本さんは自動販売機の前まで歩いていく。
あたしがお兄ちゃんからもらったお金は三百円。二人分ぐらいは買えると思う。
「んじゃオレは、っと……」
あたしがお金を入れている間に考える榎本さん。ちなみにあたしは三つ目サイダーにしようと思ってる。
「よっしゃ! オレはGGレモンだ!」
「はいはーい」
先に榎本さんのGGレモンを買って、続いてあたしのほしい三つ目サイダーも買う。これでお兄ちゃんからもらった三百円はなくなってしまった。
「いやー、ほんっとにあんがと!」
「いえいえ。うちの兄がいつもお世話になってますから」
「あっはは! そりゃ確かに」
お兄ちゃんと榎本さんの仲が良いのはあたしも良く知っている。
中学のときからの友達なんだから、当たり前なのかもしれないけど。
プシュッ! という炭酸の抜ける音を出しながらお互いジュースの蓋を開けて、さっそく榎本さんはぐびぐびと。あたしはごくごくと飲む。
「――っかーーー! すっきり爽快だぜ!」
「っあー。おいしいですね」
喉が結構渇いていただけあって、ジュースの美味しさ、そして炭酸のなんともいえない爽快感が身に染みる。
そのまま飲みながらあたしと榎本さんは再び歩き出す。
「そういえば、このまま魅奈ちゃんと一緒にオレが家までいっても大丈夫だよね?」
「? はい、大丈夫ですけど?」
「よっしゃ! それじゃ一つ魅奈ちゃんに聞きたいことがある!」
改まって榎本さんはあたしをまっすぐな瞳で見る。何か大切なことを聞かれるのかな……?
「竜子さんの趣味とか好きなものとか教えてくれない!?」
―――一瞬だけ、時が止まったような気がした。
そういえば榎本さんが一昨日だったかもうちょっと前だったか忘れたけど、そのときになんだか立花さんに対して何か悩んでいたようだったけど、もしかして榎本さんは立花さんのことが好きなのかな?
結局あの日は帰ってきたお兄ちゃんにすぐに追い出されていたけど。
「好きなものって、あたしもよく知らないんですよ。すいません」
「んー、そうか……。なんだか竜子さんはあまり人に自分の本性だとか見せなさそうな人だもんな。…ふっふっふ。攻略のしがいがあるってもんだ! オレがおとしてみせーる!」
またまた榎本さんは自分の世界に入ってしまったようだ。
こうやってたまに会う分にはいいけど、たぶん毎日あっててこれだったら疲れるんだろうな、と心の中で思いながらあたしは三つ目サイダーを一口飲む。
「攻略」だとか「おとす」だとかいうのを聞いている限りでは、榎本さんは立花さんのことが好きだ、っていうことになるんだけど…。
「――ん? ということは……?」
ふと、あたしの中で名案が思い浮かぶ。お兄ちゃんと夏祭りを二人でいるための名案が。
「榎本さん!」
「たぶん一番攻略が難しい感じの人だから、まずはどうやって攻めたものか」
「榎本さんったら!」
「まずは性格把握。墓穴とか掘ってたら埋めなおしは難しいし」
「榎本!」
「っ! はいっ!」
あっ、思わず呼び捨てにしちゃった……。でもとりあえずあたしが呼んでいることに気づいてくれたからいいとしよう。
「榎本さんにいい話がありますよ」
「いい話?」
そのときにあたしの顔がどうなっていたのかはわからないけど、きっと悪巧みを考えたお代官みたいな顔だったのかもしれない。
あたしの顔を見て榎本さんもつられるように口元がにやけていた。
◇
「ただいまー」
「おかえ」
「お邪魔しまーーーす!」
「りー……?」
横断歩道で遠まわしに立花から飲み物を奢るようにいわれたような気がした俺は、家に帰るまでは飲み物は我慢してくれ、と立花にいってみたところ案外すんなりとその案が通って、俺は金銭的危機を回避した。
家に帰ってある飲み物なんて麦茶ぐらいだったが、立花はジュースなんかよりむしろ麦茶のほうがよかったらしく、二杯ぐらい飲んでいた。なんでも熱中症予防になるんだとか。本当はスポーツドリンクなんかとあわせて飲むと効果が上がるらしい。
豆知識を教えてもらって、二人で麦茶を飲んで扇風機でも回しながらのんびりとしているところに、魅奈と誰か男が家にやってきた。…いや、前者は帰ってきたで後者がやってきた、だな。
「たっつこさーーーん!」
どたどたと廊下を走ってきてドアが開けられたと思ったら、義が興奮鳴り止まない感じで入ってきた。
「なんでお前がいんだよ?」
「そんなことはどうでもええやろがい! 俺は竜子さんに会いにきたんだ! ……ということで――竜子すわぁーん!」
「落ち着け!」
今にもパンツ一丁になりかねないような勢いで飛び込んできた義の腹に右ストレート。うん、うまく入った。
しばらくの間、痙攣-ケイレン-でも起こしたようにその場に倒れ付してぴくぴくとしていたが、やがて苦しそうに立ち上がる。
「くふっ! なにするんだよ、恭史」
「お前が変態も同然な感じで立花に襲い掛かろうとしたからだろうが!」
「違う。これはオレの愛情表現だ! ほら、ハグだよハグ! ハグしちゃお、って」
何がハグだ。大体、ハグが必ずしも愛情表現とは限らないし、誰にでもやってたらただの変態だ。
「ただいま」
遅れて魅奈が入ってきて再び帰りの挨拶をする。
――魅奈ちゃん。何か元気なかったわね
不意に立花のいっていたことを思い出して、とりあえず魅奈の顔色を確認してみる。が、やっぱり元気がなさそうには見えなくて、むしろ元気なような気がする。やっぱり立花の思い違いだったのだろうか?
「どうしたの? お兄ちゃん」
顔を見続けていたからだろうか。不思議に思った魅奈が聞いてくる。
「ん、いや、なんでもない。それより、なんで義がいるんだよ」
「あー、散歩の途中で会ったの。で、成り行き上うちまで一緒にくることになって」
成り行き上ってなんだ。いや、そんなことより少し心配事が一つ。
「魅奈。お前、義に何か変なことされなかったか?」
別に友人をそこまで疑っているわけではないが、今のあいつの勢いならなんだかやりかねないような気がする。まさか、友達の妹に手を出すほどあいつも犯罪者じゃないだろうしな。…いや、もとより犯罪者ではないのだが。
「大丈夫だよ。なんだか榎本さんは年下より年上が好きらしいし」
はて、そんな情報をどこで手に入れたのか、なんてくだらない質問はしないことにする。というか、勝手にあいつが自分の世界に入り込んでぶつぶつと独り言で言っていたに違いない。
だったらよかった、と俺は安心して義のほうへ向き直る。
すると義はなぜか立花の前で土下座をしていた。状況がつかみ辛い…!
「結婚を前提にお付き合いしてください!」
………………。
俺、ドン引き。
魅奈、ドン引き。
立花、無表情。
「……三枝くん」
「ん、俺?」
立花から聞きなれない名指しで呼ばれて一瞬戸惑う。ここで「貴方」なんて呼ばれても戸惑うのだろうが。
立花は音を立てないように立ち上がって俺の横まで来てこう囁いた。
「後はよろしく頼んだわ」
「……はい?」
立花はそういい残して、これまた器用にも音を立てずにドアを開けて二階へとあがっていってしまった。
……いや、後はよろしく頼んだ、といわれてもな。
義はまるで石のように土下座をした状態から動かない。完全に額を床にこすりつけるようにして土下座をしている。本気で土下座をしている人ってはじめて見たけど、これが義だからかな。哀れだ。
「おい、義」
………………………。
試しに呼んでみるが、応答はなし。
「義。立花から伝言だ」
………………………。
応答なし。だが俺はそのまま続ける。
「はっきりいって無理、だそうだ」
…………………ピクッ。
お、反応があったぞ。そのまま待つこと数秒。やがて義は顔を上げる。
「恭史」
「なんだ」
「あきらめねえからな。絶対に負けられない……ぜってーに負けられねえ戦いがそこにはあるんだよ!」
「うおおおお」と叫びながら義はそのまま出て行ってしまった。もちろん出て行ったというのは家からだ。
っていうか、さっきのどっかのコマーシャルのキャッチコピーだろ。
「魅奈。これからはあいつと出会っても家にはなるべく連れてこないでくれ。少なくとも立花がいる間は」
「う、うん。わかった。あたしもなんとなくあまり連れてこないほうがいいような気がしてきた」
俺と魅奈が少し離している間になにがあったかは知らないが、振り向いたら義が土下座をしていて、しかも結婚を前提にお付き合いって……どこの馬鹿正直な奴だよ。
「でもお兄ちゃん。本当に立花さんにお付き合いは無理って伝言頼まれたの?」
「いや、ただ後は任せたっていわれただけだ。まあ、任せるぐらいなんだから無理ってことだと思って」
「そうだね」
なにはともあれ一件落着。
立花は魅奈の部屋にでも戻ったのだろう。俺も部屋に戻って睡眠をとるとしよう。
「あっ、お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
ふふーん、と笑いながら魅奈が何かを指差す。その指差す先には――ノートと教科書。
「すまんが寝」
「寝させないよ」
なにやら上機嫌。なんだ、こいつは人の睡眠を妨害することで何か楽しみを見出してしまったのか。……やばい、軽く我が妹がサディストに目覚めようとしている!
「ということで、教えてくれなくていいから答え合わせよろしく! 合ってるところは丸。間違ってるところはペケだけでいいから」
これが答えね、と言いながら問題がやってあるノートと解答冊子を受け取る。というか、むりやり持たされる。
ため息をつきながら、結局俺は魅奈と同じ机の上で勉強の手伝いをすることになってしまった。俺の睡眠はいつ取れるのだろうか。眠ろうと思っていたせいで意識がぼんやりとする中、魅奈のやった問題の答えあわせに取り掛かることにした。
…
数時間して、やっとのこと俺は勉強地獄――ほとんど答え合わせだったが――から解放された。
外ではもうそろそろ日が沈もうとしている。俺はもう部屋に戻る元気もなくその場で倒れ付しているの対して、なぜか魅奈は清々しそうに伸びをしている。
「これで勉強半分終わったー! ちょっとお兄ちゃんの丸つけが汚いけど、そこは目をつむってあげようかな」
そりゃ汚いに決まってるだろ。こっちは眠たさ半分で丸つけをしていたんだから、丸が途中で途切れたり角ばったりしたってしょうがない話だ。
「今日はありがとね、お兄ちゃん。今度お兄ちゃんのも手伝ってあげるよ」
「マジか!? って、高校の問題をお前が解けるわけないだろ」
「そんなのわかってるよ。お兄ちゃんと同じで丸つけだけだよ、手伝うのは」
なるほどね。俺はそれを条件として今日の苦痛を忘れることにした。
だが後々よく考えてみたのだが、丸をつける前にまず俺が問題をやらなければいけない。で、俺はといえばまず問題を解くのが一苦労である。つまりはつまりである。問題を俺が解けない限りは魅奈の出番はない。魅奈、手伝う時来ず。
まあそんなことに今の俺が気づくはずもない。もしかしたら魅奈は影でほくそえんでいるのかもしれない。策士だな、魅奈。
「あら、終わったのかしら?」
タイミングを見計らったようにして立花が部屋に入ってきた。
「はい、とりあえずひと段落ついたって感じです」
「あら、そう。……で、貴方は床なんかに突っ伏してどうしたの?」
「疲れたんだ。眠たいんだ」
そう、と一言いって立花は魅奈となにやら勉強の成果について話し始めたようだった。
俺はこのまま寝てしまおうと思って目を閉じる。慣れないことをした後だから、今日はすぐに眠れそうだ。今度こそ夢の中へ……。ちなみに、これだけ疲れていると逆に夢を見ないかもしれない。レム睡眠、つまり夢を見る睡眠状態は脳が半分覚醒しているかららしい。ということは、これだけ疲れていれば脳も休みたいことだろう。ちなみに夢を見ない状態のことをノンレム状態というらしい。以上、俺の知っている数少ない雑学。しかも、これは案外有名な話なので……ああ、なんだかもうどうでもよくなってきた。
「お兄ちゃん、寝るんだったら自分の部屋で寝てよね」
寝ようと思ったところで一言魅奈がいう。ゆさゆさと俺の体をゆすってくるが、それさえもゆりかご効果となって俺の睡眠を助長する。
「魅奈ちゃん。それだけじゃ甘いわ。もっと厳しくしないと」
「厳しくって、具体的にどうするんですか?」
「たとえば拳を硬くして」
「わかった! 自分の部屋で寝るから物騒なことをしようとするな!」
本気で殴られる数秒前に俺は起きて、しぶしぶ自分の部屋に戻ることにした。
物分りがよくて助かるわ、と後ろのほうでいっていたが、物分りがいいとか悪いとかじゃなくて危険察知がちゃんとできているんだ。
俺はちゃんと部屋に戻ってベッドに横になる。そして今度こそ夢の中へ――!
「…………………あれ?」
なぜだろう。眠れない。
もしかして階段を上る工程だとかで眠気が覚めてしまった? それとも眠気の波が今覚醒のほうへ向いていて逆に目が冴えてしまっている?
どちらにせよ、もうしばらくは眠れそうになかった。やっとこさ眠れたのは目を閉じて十分後ぐらいのことだった。
◇
あたしにもお得で榎本さんにもお得な話。それはどっちにとっても立花さんという存在が共通していた。
ということは。
立花さんがお兄ちゃんから離れてほしいあたし。そして、立花さんとお近づきになりたい榎本さん。ここから出される答えはとっても簡単。
あたしがうまいこと立花さんを適当に連れ出して、あたしがトイレかなにかで離れている間に、偶然にも榎本さんが立花さんと会った様な雰囲気をかもし出す。
そのまま榎本さんが立花さんをどこかへ連れていって、あたしはお兄ちゃんのところへ戻る。
「完璧っ!」
あたしは部屋に立花さんがいないことをいいことに、ガッツポーズを堂々と取った。
今、立花さんはお風呂に入ってる最中。お兄ちゃんは熟睡中。お母さんとお父さんはついさっき帰ってきて、今はご飯ができるのを待っている状態だ。
――あたしが榎本さんに提案したのは、あたしがついさっき考えていたソレだった。
榎本さんは快く引き受けてくれた。もちろん、あたしがお兄ちゃんと二人になりたい、なんてことはいってないけど、榎本さんは自分が良い状況になればたぶんよかったのかもしれない。ある意味、単純。だけど別に悪い気はしなかった。
お祭りまでは、今日をいれてまだ二日あるし焦ることはないけど、少しだけあたしは頭の中でその構想を再び練る。
今日の一件で立花さんはもしかしたら榎本さんに対して、何か悪い気をおこしたのかも知れないけれど、たぶん大丈夫。いや、絶対に……。
「……はぁ」
思わずため息をついてしまう。
いまさらながら、こんなことを本気で考えている自分は本当におかしいと思う。こんなことをしていいのか。自分でもわからなくなってくる。
いいのかな……? 本当にこんなことをしても。
――いいんだよ。
心の中で誰かがつぶやく。きっと、悪魔のあたしと天使のあたしがいるのかもしれない。…なんて、漫画みたいなことあるはずがないか。
――あたしはお兄ちゃんと一緒にいたいんでしょ? だったら、その気持ちに素直になればいいんだよ。
また誰かがつぶやく。誰かが……?
「……あたし?」
一人つぶやいて、部屋を見回す。もちろん、誰もいない。立花さんもまだお風呂に入ってるはずだし。
――あたしはあたしの気持ちに素直になればいいの。だから悩むことなんてないの。
誰かが、だけど確かに“あたし”が“あたし”に対して言っている。もちろんあたし自身がつぶやいているわけではない。頭の中だけで響くような感じだった。
こんな、漫画みたいなことが本当にあるんだ。あたしはそんなことを思っていた。
「あたしは、あたしの気持ちに素直になれば…いい」
――そう。何もおかしいことなんてないの。だから自身をもってやりましょう。
「――そうだね。自身をもってやればいいんだ! 立花さんになんて負けないんだから!」
あたしはガッツポーズを再びして、決意を固めた。
それ以降、頭の中で響いてた“あたし”のつぶやきは聞こえなくなった。あれはきっと迷ってる自分に対して渇を入れたのかもしれない。少し信じられないことだけど、なんだか無性に自分がやることに自身が持てた。
あたしはあたしの気持ちに素直になればいいんだ――。
◇
夜も次第に深まり、暗闇に光がぽつぽつと点り始める。
――観る時間は終わった。
観るだけの時間はとても退屈だ。たまに面白そうなモノを見つけるが、それは本当に一時的なもの。
動くこともできた。だがしかし、それは“望まれてない”。だから望まれるまでは行動を起こせない。望まれなければ■■はただ観るだけ。傍観者に等しい。
故に、空にあった白い発光体の代わりに、暗闇に昇るもう一つの白い発光体が光るときは■■にとってはとても待ち遠しい時間。
“夜”というモノは多くのモノが■■を望む。“昼”というモノのときでも望むものはいるが、夜に比べれば少ない。
だから、本格的に動くのは夜だ。……だが、今日は昼からおもしろいモノを見つけていた。昼から■■を少なからず望むモノ。
後をついていってみれば、それは面白いことにアレがある所と同じ場所だった。
――面白い。
だがしかし、今日の目的はソレではない。どちらにせよ、今のソレは厄介なことに防衛されている。むりやり奪い取るには時間がかかってしまう。その前に気づかれてしまうだろう。しかし、試さなければいけない。
そのための一歩。■■はソレにつぶやく。
――あたしはあたしの気持ちに素直になればいいの。だから悩むことなんてないの。
それはまるで、催眠術のようでもあった。
更新に間があるので、少々ストーリーも忘れてしまいがちかもしれません。そこのところは本当にすいません。
更新速度を本当にあげていたきたいです。せめて一週間に1話スペースであげていきたいところです。
次の更新予定は4月中期までにあげます。では。