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13.無意識な常識

結局更新が遅くなりました。

少し今回は説明っぽいところが長いです。

 暗い。なにもかもが真っ黒で何も見えない。

 俺は何処にいるんだ? しばらく考えて、それに気づいて自分に呆れる。

 閉じられていた目を開ければいいこと。つまり…俺はただ眠ってただけなんだ、と気づいただけだから。


 「んっ……」

 目を開けると光が俺の視界を覆う。

 次第に目が光に慣れて視界が鮮明になってくる。俺は身体を起こして少し痛む頭を押さえながら周りを見て、ここが自分の部屋なんだと気づいた。

 「あら、意外と早かったわね」

 後ろのほうから声がして振り向くと、そこにはベッドに座って漫画を読んでいたらしい立花がいた。

 「なんでお前ここにいるんだ?」

 「なんでもなにも、貴方を見守っていただけよ」

 漫画を片手に持ちながら言う立花には何処となく説得力がない。が、否定もできない。

 立花は漫画を閉じてベッドの上に置くと立ち上がった。

 「ご飯、だそうよ」

 そういって立花は俺の部屋から出て行ってしまった。そのまま階段を下りて居間に行ったらしい。

 俺は一人部屋に残されてしばらく静止。魅奈が俺を呼ぶ声を聞いてやっとのこと動き出した。

 「お兄ちゃん遅いよ」

 「すまん、寝てた」

 適当な言い訳をして、積まれた段ボール箱の上に座る。もはやここが俺の席となってしまったようだ。俺の席になんの遠慮もなしに座っている立花をちらりと見るが、堂々としすぎて、そこは俺の席だ、といえない。いや、これは昨日からのことなのだが。

 机の上を見てみると、昨日までとはいわないがそれなりに豪華な食事が並んでいた。もちろん品数も昨日よりは少ない。

 「いただきます」

 俺以外の皆は既に食べ始めていたから、俺は一人遅れて合掌をして食事を食べ始めた。

遅れて食べ始めたというのに俺が一番早く食を進めていた。親や魅奈、立花も乗り気なのか乗り気でないのかわからないが、話に華を咲かせているようだ。

 そんな話の内容なんて別段気にならない俺は一人で黙々と箸を進ませてやがて食べ終わった。

 ごちそうさま、と合唱をしたもののそれに対する返答は返ってこない。俺の言葉が届いたかどうかなんてどうでもよかったから俺はその場から席を外した。

 「後で貴方の部屋に行くわ」

 廊下に出るドアを開ける際に立花が俺に言う。

 俺はそれを無言で了承してから自室へと戻ることにした。

 「……ぼーっとしてんな、俺」

 さっき起きてからなんだか意識がはっきりしない。

 うまく頭が働かない、といった感じだろうか。まず、俺はなんで部屋で、しかも床で寝そべってなんかいたんだ。そして、その近くになんで立花はいたんだろうか。ベッドの上でぼんやりと考える。

 ……あっ、思い出した。

 なんだかいきなり頭痛がしだして、そのまま苦しんで倒れたんだっけ。

 …高が頭痛で? いや、そんなはずはない。確かに頭痛で倒れたという結果に間違いはないが、もっとほかのことがあるはずだ。


 『無意識下の防衛――厄介な』


 そうだ。あのよくわからない音の無い声。いうなれば言葉が俺の頭の中に響いてから俺は倒れたんだ。

 思い出してやっと頭が働き出した。俺はその後意識を失って寝ていた、ということだろう。

 「入っていいかしら?」

 こんこん、というドアのノック音に続いて立花の声が聞こえた。

 「ああ、いいぞ」

 「失礼するわ」

 ドアを後ろ手で閉めながら言って、立花はなんの遠慮もなしにベッドの上に座った。

 「何か用か?」

 「ええ。貴方にいくつか聞きたいことがあるの」

 「俺に聞きたいこと?」

 「私がいない間、貴方の身に何があったか覚えてるかしら?」

 立花がいない間……さっきまで俺が考えていたことだろうか。

 「ああ、確か急に頭が痛み出して、それで何かよくわからないままに気絶したってことなら覚えてるぞ」

 「その頭痛の原因が自分でわかるかしら?」

 頭痛の原因、か。実のところよくわからない。冷房が効きすぎて気持ち悪くなった、とかいう類のものではないだろう。

 頭がしめつけられるような痛み。いや、痛みという言葉だけでは足りない痛みだ。風邪を引いてどれだけ高熱が出ようとあそこまでの痛みはきっとないはずだ、といえるぐらいに。壊れてしまいそうなほどの痛み。

 「貴方ね、ムタンに乗っ取られかけてたのよ」

 「――――へ?」

 もう何度立花相手にいったであろう間抜けな一言。

 「俺が、ムタンに乗っ取られかけてた?」

 「ええ。私がすぐに駆けつけたからよかったけれど、少し遅かったら貴方は死んでいたかもしれないわ。いえ、本当なら貴方は死んでいた。確実に。それもこの世から貴方という存在がなかったかのように塵一片残らずに」

 「なっ――」

 死んでいたかもしれない、って。

 「そこで貴方に一つ聞きたいことがあるの。貴方、何かムタンに対して抵抗した?」

 「抵抗って…そんなことはした覚えはないぞ。というか、あの時の痛みがムタンによるものだってことも気付いてなかった」

 そう、と一言いって立花は顎に手を当てて何か考え始めた。

 「それより立花! 俺がムタンに乗っ取られかけていたってどういうことだよ? なんでまたいきなり!?」

 たった一日半といえど、ここまで行動らしき行動を見せなかったムタンが突然行動を起こして、俺を乗っ取って殺そうとしていた。こんな笑えない話に俺は少しパニック状態になっていた。

 「たぶん昼間に見られたので私が貴方を保護対象に入れたっていうことがばれたのね。そこでムタンはきっと貴方を消そうと行動を起こした。でも、そこがおかしいのよ。今まで私が保護対象に入れた人はムタンに見つかればあっという間に乗っ取られて殺されていた。というより、無くされていたわ。でも貴方を乗っ取ることはできなかった。つまり型を奪い取れなかった。ここがおかしいのよ」

 「おかしいって、型を奪い取れないことがおかしいっていうのか?」

 こくり、と立花は頷く。

 「少なくとも私が今まで見てきた人たちはムタンに容易く型を奪い取られていたわ。それこそ抵抗なんてする間もなかったし、できるはずもなかった。でも私が駆けつけて視たとき、ムタンは貴方の型をほとんど奪えてなかった。まだ指一本分ぐらいの型しか奪えてなかったわ」

 つまりそれは、ムタンが俺の型を奪い取るのに苦戦していた、ということだろうか。立花はそれがおかしいという。

 「抵抗……そういえば、なんか声っていうより言葉みたいなのが俺の頭の中で無意識下の防衛とかなんとか響いてきたんだけど、これは何か関係があるのか?」

 「無意識下の防衛……?」

 あの時確かにムタンはそう呟いた。その後に別手段をとらなければいけない、というようなことが頭の中で響いていたが、あれはムタンの悪態のようなものだったのだろうか。

 立花は俺の言った“無意識下の防衛”という言葉を考えているのか、顎に手を当てたままずっと下を向いて何か考えているようだ。

 「……ありがとう。後は私が考えておくわ。何かわかって貴方にも有益な情報であったら教える」

 そういって立花は俺の部屋から出て行ってしまった。

 俺は一人部屋に残されて、ベッドに寝転がって天井を見た。

 知らないうちに見えない敵は俺に近づいて、そして俺を殺そうとした。

 そんな何処かのウィルスのような敵に俺は狙われている。そうやって再び実感した。

 「どうしろってんだよ」

 一人、どうしようもない悪態をつく。

 わけもわからないもやもやとした感覚は、俺の心の穴をなぜか埋めているような気がした。

 次第にそれは変換されて、なぜか“楽しい”なんてものに変換されてしまった。

 「……狂ってんな、俺。殺されかけたってのに」

 自嘲気味に言って、少しずつ満たされつつある虚しさという穴はまた少しだけ埋まった。


 ◇


 私は一人で考えるために、暗い夜道を歩いている。

 無意識下の防衛。この言葉の指す意味がまだわからない。

 言葉どおりに捕らえて、無意識のうちに行った防衛、なんていうことしかわからない。

 なぜムタンは彼の型を奪い取れなかったのか。そこにその“無意識下の防衛”というのが関わるのであれば、三枝恭史という型を奪い取られない方法がわかる。

 それにしても、無意識とは厄介なものである。意識的に行った防衛というのなら、本人にそのときのことを教えてもらえればすぐに解決する。

 しかし、無意識というのはその人の中で“当たり前”と思っているようなこと。瞬きをする。これも無意識に行う当たり前の行為である。意識的ではないから気付きにくい。あまりにも常識的な行為は意識から外れてしまうのだ。

 そしてその無意識下の防衛は私にもある。もちろんフォーカスにもあるのだろう。でないと私やフォーカスはムタンにとって邪魔な存在。すぐに消されてしまうはずなのだ。

 家族を殺されてからずっとムタンを追い続けてきたというのに、いまさらになってそんなことを疑問に思った。

 まずはそこから考えるべきだったのかもしれないというのに。

 「難しそうな顔してんな。失せモノでも増えたか?」

 いつの間にきたのか、公園の前に来て明らかに私に対する発言。

 「…いいえ。ただの考え事よ。そういう貴方はジャラジャラとつけてたモノがなくなってるじゃないの」

 私は公園の入り口に立っている男、フォーカスに対して言った。昨日見たときは金属類のアクセサリーをたくさんつけていたのに、今日の昼間見たときからそれはなくなっていた。何もつけていなければ、少し柄の悪い男性だ。

 「逃亡生活には邪魔なんだよ。それでも金になったぶんまだ良かったな」

 ポケットから万札を数枚取り出して見せ付けるようにひらひらとさせた。

 しかし、私がそれに興味を示さないのがわかったのかフォーカスはそれを少しつまらなさそうな顔でポケットに閉まった。

 「相変わらずつれないな、お前は。愛想のない女は嫌われるぜ?」

 「何か用かしら。ないのなら私は貴方の見えないところに行きたいのだけど。この二日で合計三回も貴方の顔を見るなんて楽しくないもの」

 「はっ、別に用なんかねえよ。ただ偶然通りかかったお前に、ただ声をかけて、ただ茶化してやろうと思っただけだよ」

 「そう。ならさよなら。できるなら貴方の顔なんて当分見たくないわ」

 「当分、ってことはいつか見たくなるってことか。そいつはうれしいね、あっはははは!」

 「同じ目標を追ってるものとして、絶対に会わない、なんてことはないわよ」

 苛立ってきた私はそういってその場から立ち去る。

 …が、一つだけ聞きたいことがあって立ち止まった。

 「一つ聞きたいことがあるわ」

 「ほー、お前から聞きたいことなんて珍しいな」

 「無意識下の防衛、ってなんのことかわかるかしら」

 対して期待もしていないが、返答を待つ。

 「はっ? なんだそりゃ?」

 ある意味期待通りの返答をよこしてくれたフォーカスに、何も答えずに私は溜息一つ残して、その場から今度こそ立ち去った。


 一人残されたフォーカスは公園の中に入って、ベンチに置いてあった缶ビールを飲む。

 「やっと気付き始めたのかよ。…でも、まだ答えまでは出してねえみたいだな」

 小さく笑ってからフォーカスは缶ビールを一気に飲み干してから片手で握りつぶす。

 そこらへんに投げ捨ててからベンチの上に寝転がる。

 「しばらくはこの街に居座ることになりそうだな。立花」


 …


 朝がやってきた。俺は布団にくるまっていたところを立花の華麗な剥ぎ技(?)により布団を奪われ、朝食をとることになった。

 父さんと母さんは今日はどちらとも朝早くから仕事に出たようだ。

 よって、朝の食卓にいるのは俺と魅奈と立花だけだった。

 「やっぱり立花さんの剥ぎ技はすごいね。私も習わないとな」

 本気で感心しているようで、魅奈は白飯をぱくぱくと食べながら一人頷いている。

 立花は姿勢正しく座って、無言で白飯を食べている。

 今日は母さんと父さんもいないことなんだから、空いている席に座ろうとしたら、なぜか立花にも魅奈にも拒絶されて俺はしぶしぶとダンボール箱の上に座っている。どうやらここが俺の定位置になってしまったようだ。

 たった二日で俺の席を奪われるというのは、どれだけ俺に力がないか、という表れでもあるのかもしれない。いや、切実にそう思う。

 立花と魅奈はいつも隣の席で食べているというのに、なぜか今日に限って魅奈はいつも親が座っているほうに座っているのだ。

 そりゃ、別段席が変わったからと言って何か大変なことが起こるわけでもないのだが、それでも、やはり何か切ない。っていうか、両者に隣の席を座ることを拒絶される俺って一体……?


 ということで、夏休み三日目。

 昨日はムタンに殺されかけていた、なんていう事実に少々あせっていたが、そんなあせりも一晩寝てしまえばなくなってしまったらしい。

 それどころか、少しうきうきした気分になっているぐらいだ。ほんと、俺は狂いだしてるのかもしれない。

 まあ、こんな感覚はカラオケから立花に拉致されるときにも一回感じていた。そのときから俺が狂っているというのなら、いまさら狂いだしたとて別に変わらないだろう。

 昨日、立花は外に一人で出て“無意識下の防衛”について考えいたらしい。

 俺を残していってよかったのか、と帰ってきた立花に聞いたら、ムタンも同じことを同じ晩に起こそうとはしないでしょ、ということだった。

 そんなこんなで自室でのんびりとしている俺。今はまだ朝の十時。立花が来る前までの俺なら昼までぐっすり寝ていた俺としては何をすべきなのかよくわからない時間帯でもある。

 少しだけ机の上に重ねてある夏休みの課題を見てやろうかとも思ったが、どうやら俺の身体は思い通りに動かないらしい。勉強というものを拒絶しているのだろう。いや、たぶん俺自身が拒絶しているだけなんだろうけど、そういうことにしておく。

 立花は一階で魅奈とテレビを見ている。魅奈が誘ったからだ。

 さて、俺はどうするか――。

 「――んっ?」

 伸びをしながら寝転がると、なにやら長い物が壁にたてかけられているのに気付いた。

 はて、こんな長い物が俺の部屋にあっただろうか? あいにくとそういう長い物を使うようなことはしたことがない。

 丁寧に布袋に入れられているようで、一見、竹刀をしまう袋のようだ。

 気になって俺は立ち上がってその布袋を手に取る。

 「ん、意外と重いな、これ」

 竹刀にしては少し重い。俺は布袋の口を開けて中身を確認する。

 「なっ!?」

 中身を見て驚愕した。なんというか、生で見たのは初めてなんだ。

 中にはなんと日本刀が入っていた!

 男としては興味を持たないほうがおかしい! 俺は中からその日本刀を取り出す。

 飾り気がない、それでいて格好いい鞘に入っている日本刀を腰に当てて、何処かの時代劇のように抜刀をしてみる――

 「入るわよ――」

 しゅばっ! と抜刀された刀の刃先が立花の目の前を横切る。

 「あっ……」

 「……貴方、何してるの?」

 「いや、なんか見慣れないものがあるなー、と思って中身確認したら日本刀入ってたからさ、なんか、こう……男のロマンというかなんというか」

 やばい、なんか立花の目が本気で怒っているように見える。物静かな瞳の奥に何か炎がちらついているような気がする。

 「いや、危なかったのは謝る! ごめん!」

 「私が言いたいのはそういうことじゃないの。勝手に人の物に触れたことが許せないの」

 「……へ?」

 人の物って、これまさか…?

 「私の日本刀、返してくれるかしら? すぐに返してくれるなら許してあげるわ」

 お前のだったのかよ!

 俺はすぐさま日本刀を鞘にしまって、献上するように立花に日本刀を返す。

 「ありがとう。まあ今回は許してあげるわ」

 そういって立花は日本刀を鞘からゆっくり抜く。

 「峰打ちだけで」

 いい足して、刃の背面で俺の腹を打った。素人から見ると目にも止まらぬ速さでくりだされたそれを避ける術はもちろん、防ぐ術などあるわけもなく。

 「おぶっ!?」

 腹を強打されたような痛みに俺はうずくまる。

 「これに懲りたらもう勝手に人のものをいじらないことね。まあ、今回は私が置き忘れてた、ということもあるから私にも非があるのだけどね」

 なら、なんで俺は峰打ち喰らったんだ……?

 言葉にして言おうにも声がでない。漫画とかでよくある「峰打ちだ。安心しろ」って意外ときついんです……ね。

 「なんで日本刀なんて持ってるんだよ」

 息を整えて声が出るようになったところで立花に問う。

 「これが私の武器だからよ。ムタンに対するね」

 「日本刀がムタンに対する武器? そんな一般的なものでいいのか?」

 「ムタンだって何も効かないってわけじゃないの。戦うというのなら身体が必要になる。身体があるなら、この日本刀でだって斬れないことはないわ。もちろん、少し再構築しないと難しいけれどね」

 つまりムタンも無敵ではないということだろう。しかし、それはあくまで身体となるものになった場合だ。万物っていうのは実態あるものに限らず、大気や思考といったものにまで及ぶ。

 「もしも身体のないようなものを相手にすることになったらどうするんだよ? 少なくともその日本刀じゃ太刀打ちできないんじゃないのか?」

 「そうね。でもその点は大丈夫。ムタンは型を奪い取れる、といってもその型の規模が大きければ大きいほど乗っ取るのには時間もかかるし困難になってくるの。だからムタンは基本、人や物のような身体となるものがある型しか奪わないの。

 例えムタンが大気というモノの型を奪い取ろうとしても、大気なんて何処にでもあるようなものだし、無限にもあるようなものだから、その型全部を奪い取るには時間がかかるのよ」

 「つまり、大気とか思考とか、そういうものの型も奪い取れはするけど、時間がかかりすぎるから、すぐに奪い取れる形あるモノの型を奪い取る、っていうことか?」

 「まあ、そんな感じね。それでもムタンは大気や思考の型の一部分だけなら奪い取ることができるのよ。

 そうね、わかりやすくいうなら、“思考”っていう型があるとする。その思考という型は人の数だけあって、その集合体となったものが思考というモノの型になるの。その思考という型からは複雑な蜘蛛の巣のように私たち人間のように考えることができる者たちにつながってるわ。ムタンはその思考の糸を奪い取ることができるの。思考というモノの集合体、つまりはコアとなる部分は乗っ取れないけどね。

 例えば、私につながっている思考の糸を奪い取ったなら、私の思考にリンクすることができる。同時に私の頭の中にムタンの思い、考えることを送ることができるの。でも、ただそれだけなのよ。攻撃も何もできないのだから、伝えたいことを伝え終わったらムタンはその糸を放すのよ。例えその糸をちぎって私の思考というモノがなくなったとしても、思考の型本体から再び私に思考の糸がつながるから、何も影響はでない。

 どう? わかった?」

 「はっきりいって、半分ぐらいしか理解できなかった。一気に話しすぎだろ、お前」

 「何言ってるの。貴方の理解力が足りないだけよ、きっと」

 否定することができないから何かむかつく。

 「まあ、大まかにまとめて、ムタンは形あるモノの型しか奪わない。これでいいか?」

 「本当に大まかにまとめたわね……。まあいいわ。その理解の仕方にそんなに間違いはないし」

 なんとか正解にはたどり着いたようだ。

 それなら日本刀でも斬れる、ということだろう。

 それに、さっきの立花の長い説明をかいつまんで理解するなら、昨日俺の頭の中に響いてきた言葉にもなんとなく説明がつく。ムタンが奪った型の一部分が俺の“思考”というものを奪っていたからかもしれない。

 「にしても、いつ持ってきたんだ。日本刀なんて」

 「昨日、貴方がムタンに襲われていたときよ」

 なんだか嫌味ったらしく言われた。

 「……まあいいけど、家から持ってきたのか?」

 「そうよ。一昨日、荷物と一緒に持ってきてもらえばよかったのだけどね。自分のものだから自分で管理したかったのよ。別に梅規を信用してないわけじゃないけどね」

 自分で管理したい、か。

 確かに、大切なものならいくら信用できる人でも預けたくはない。どこか不安が残るからだ。

 「それにしても、これ。どこに置いておくか迷ってるのよね。妹さんの部屋に置いておいたら、興味を示されて触られそうだし」

 「ああ、ありえるかもな。やっぱり日本刀なんて珍しいし。俺も生で見たのは初めてだしな」

 「……もう貴方も触ることはないでしょうし、ここに置いててもいいかしら?」

 「俺は別に構わないぞ。さすがにさっきみたいに峰打ちされるとなれば触れることもないだろうからな」

 ありがとう、と一言いって立花は日本刀を布袋に入れて、さっき置いてあった場所に立てかける。

 俺の部屋にほかのやつが入ってこない、なんて可能性はないわけではないが、とりあえず大丈夫だろう。

 「そういえば、俺に何か用があったのか?」

 元をたどっていけば、立花は俺に何か用があったから来たんじゃないか。それがいつの間にか長々しい説明を聞く羽目になっていただけだ。

 「そういえばそうだったわね。私が貴方に用事があるわけじゃないけど、お友達が来てるわよ」

 「なんだって!?」

 「確か昨日、学校で会った女子生徒だったかしら?」

 しかも巳乃宮かよ!?

 「それを早く言えっての!」

 俺はダッシュで部屋から出て階段を駆け下りる。玄関を見てみるが誰もいないようだ。もしかして待たせすぎた帰った……?

 「うおっ!? 魅奈ちゃん強いねー! でも今度こそ勝つんだから!」

 ……と、居間のほうからなにやら活発な女子の声が。

 居間をのぞいてみると、案の定、そこには巳乃宮がいた。

 「あっ、お邪魔してまーす♪」

 魅奈と楽しくテレビゲームで盛り上がっていたようだ。

 「なんだか立花さんが呼びにいったっきり全然こないからさ。魅奈ちゃんと遊んでたんだよ? 何してたの~?」

 うっしっし、という感じで聞く巳乃宮。

 「少なくとも、お前が考えているようなことはしてない。ただ話してただけだよ」

 「ちぇー。つまんないなー、ねぇ? 魅奈ちゃん」

 「ほんと、つまらないですねー」

 あはははは! と二人して笑う。何かむかつく。っていうか、最近女になめられすぎじゃないだろうか、俺。

 「つまんなくてすまねえな。で、巳乃宮はなんの用事だ?」

 笑うのをやめて巳乃宮は思い出した、といわんばかりに手のひらをぽんっ、と叩いた。

 「そうそう、少し恭史に協力してほしいことがあってね。引き受けてくれる?」

 「用件もいってないのに引き受けられるかよ」

 「そ、そんなー。女子の頼みを何も聞かずに受けるのが男ってものでしょ? ねぇ? 魅奈ちゃん」

 「そうだよお兄ちゃん。女性の頼みは無言で引き受けるのが男だよ!」

 なに二人で組んでやがんだ、こいつら。

 「ね? お願い! 何も聞かずに協力して? 恭史くん」

 「くんとかつけるな、少し寒気がしたぞ」

 さて、どうしたものか。そりゃすることはないわけだが、こんな朝から何をするというのだろうか。

 俺はしばらく考えて、巳乃宮の頼みを承諾することにした。

 「ありがとう! さすが男だね!」

 関係ねえよ、男とか。

 「それじゃいこっか!」

 「何処へ?」

 「買い物へ!」

 それはあまりにも唐突すぎる頼みだった。


これからも少し長めになりそうです。

その分、内容を濃くしていきたいと思います!

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