11.気持整理
今回は早めの更新できました!
短い分だけ、どこか手抜き感があるかもしれません。
学校から帰ると、玄関に見慣れない靴があった。
だけどそれはつい最近、っていうかついさっきまで見たことがあるようなないような靴で…。
「お兄ちゃん、友達がきてるよー」
――で、その見たことあるような靴の主は俺の友達らしい。
「よっ!」
部屋に戻ると、図々しくも義が俺のベッドの上で寝転んでいた。
「帰れ」
「第一声がそれかよ!? ひどいぜ恭史~」
学校で、問答無用で俺の家に入ってくるとかなんとかいっていたが、まさか実行するとは思わなかった。無駄な有言実行だ。
すがるようにして俺の足元にべったりとくっついてくる義を力ずくではがして俺は強制的に帰らせた。
数分間ぐらい玄関で嘆きの声が聞こえていたが徹底的に無視した。
「なんだったの?」
「バカが一人いただけだ」
「ふーん」
よくわからない会話が成立し、魅奈は手元にあった漫画を一冊手に取る。
ちらりとその漫画を見てみると見覚えのある表紙が…。
「おい、それ俺の漫画じゃんか」
「あっ、読ませてもらってるよ。立花さんが持ってきてついでにあたしも読んでみたらハマっちゃった」
魅奈の漫画の趣味っていうのはわからないが、どちらかというと少女漫画趣向かと思っていた。
俺が読むのは少年向け漫画ぐらいだが、最近の女子は意外と少年向けのほうも読むらしいし、別におかしくはないのかもしれない。
「そういえば、立花は?」
「立花さんなら帰ってからすぐにまた何処かに行っちゃったよ?」
帰ってから見ないと思ったら出かけていたのか。
だがいつの間に出て行ったんだ…?
そんなことを俺が知る由もなく、喉がかわいたから何か飲もうかと冷蔵庫を開けてみる。
案の定、冷蔵庫の中にあるのは作り置きの麦茶と牛乳。どちらかというとジュースが飲みたい気分なのだが…。
「ちょっとコンビニいってくる」
「………………」
しばらく待ってみるが返事は返ってこない。どうやら漫画に熱中しているようだ。
まあいいか、と思って俺は自室から財布を取ってきて家を出た。
家で効いていたクーラーの涼しさとは一転、むわっとした空気が玄関のドアを開けた瞬間に流れ込んでくる。
「あつ……」
思わず出る一言。
いえばいうほど暑くなるのはわかっているんだが、涼しいといっていたって結局暑い。
コンビニに行くのをやめて、家に戻って麦茶でも飲もうかと思うが一度は家を出たんだ。そこで戻るのはなんだかやるせない。
家からコンビニまで約十分ぐらい。自転車でいけば五分ぐらいだが、自転車は昨日のビル倒壊によりぺしゃんこになってしまった。
そういえば、自転車のことを全然親に話していなかった。それどころか、押しつぶされそうになったことさえ話していない。親に帰ってすぐに立花を泊まらせてくれるよう頼んだからなのか、その話題に触れることを完全に忘れていた。
今夜話そう、と決めてコンビニへと向かうことにした。
コンビニへ向かうには商店街前までいかなければならない。
家から商店街までが意外と近いからそのあたり困ったりすることはない。
どうせならコンビニに行くだけじゃなく商店街を少しうろちょろとして帰ろう、と短い住宅街から道路に出る。
信号のあるところまで来て、ちょうど赤になる。それを少しうらめしく思いながらぼーっと前を見ながら青になるのを待つ。
ここの信号が赤から青になるまでの時間はだいたい一分。だけど、待っている間の一分は五分に相当する。
汗がうっすらと額に出てきて、服の裾でそれを拭う。昨日、今日に引き続きタオルを持ってくるのを忘れていたのを後悔する。
「あら、こんなところでどうしたの?」
後ろから声をかけられて振り返るとそこには立花がいた。
「どうした、って…そりゃ俺が聞きてえよ。どこ行ってたんだ?」
「私は散歩みたいなものよ」
本当か嘘かなんてわからないこといって、俺の隣に並ぶ。
「何処行くの?」
「ちょっとコンビニまでジュースでも買いにな。お前も着いてくるか?」
「……そうね。いざという時のためにも着いていきましょうか」
そんな“いざという時”がこないのが最善なのだが、俺もやはり怖い。この街中でいきなり見知らぬ誰かが俺を殺す、なんてことは充分に考えれることだからな。
信号が青になり、俺と立花は横断歩道を渡る。歩いていると、ふと目の前に一人の男性が目に入った。
なぜかその男性は俺たちをにらんでいるようだ。…いや、正確には立花を睨んでいるのか?
無視するのが一番だと思ってそのまま横断歩道を渡るが、なぜか立花は少し後ろのほうで立ち止まっていた。同じく、立花も男のほうを睨みつけているようだ。
「…立花?」
呼びかけてみるが、立花は動こうとしない。もうそろそろ信号が赤になる。
信号が点滅を始めたころに立花は動き出し、同時に男も歩き出す。
そのまま立花とその男はすれ違って、やがて立花は横断歩道を渡り終えたところにいた俺のところにやってきた。
「どうしたんだ?」
「……なんでもないわ。さっ、いきましょ」
さっきまで睨みつけていたときのような怖い顔はすでになくなり、何事もなかったかのように俺と一緒に黙々と歩き続けた。
◇
横断歩道の向こう側、私を睨みつけている男性。
わたっている途中だというのに歩みを止めて私もその男性を睨みつける。
――フォーカス。
昨日会ったときとは違って、やたらとつけていたアクセサリーがなくなっていて一瞬気づかなかった。
しばらく睨み合い、信号が点滅し始めて同時に動き出す。
フォーカスは依然として私を睨みつけながらこちらに歩いてくる。対して私はそれを無視して歩く。そしてすれ違い様に――
「――失せモノ増やすなよ」
そういって、フォーカスは通り過ぎていった。
私だって、増やしたくないはずなのに増やしてしまってる。そんなことにはとっくに気づいていた。
今までも私はムタンの気ままな殺人に狙われている人を保護対象に何人かいれことがある。だけど、それを当人に知らせたことはなかった。知らせたってどうせ信じてはくれないだろうし、大抵はあっさりとムタンにのっとられて死んでしまうことが多かった。
そう、私は保護対象に入れておきながらなんの役にも立たなかったんだ。
ムタンがその保護対象をのっとった、と気づいたときには既に遅い。まるで元からそんなモノなんてなかったかのように、この世から塵一片も残さずに殺した。
まるでそれは神隠しのようで、次の日にはその家族が警察に捜索願いを出したりと大騒ぎになるが、それは絶対に見つけられない。
ムタンは自害のひとつの方法として型を壊す。
型というのはモノの媒体。つまりは身体のようなもの。それが破壊されれば、瞬く間にその身体は消えてゆき、まさに塵一片も残さずにモノを殺す。…いや、無くす。
そのときに私は自分の無力さに絶望した。だけど、誰かを救おう、という気持ちだけはなくならなかった。
どうせまた無くすんだ。そうはわかっていても身体が動く。
今回だって、どうせ無くすんだ、とわかっていながらも今私の前を歩いている三枝恭史という男を保護対象に入れて、守っている“つもり”でいる。
もしかしたら、近いうちに三枝恭史というモノは無くなるかもしれない。いつムタンが三枝恭史の型をのっとるかわからない。だけどそれまでの間――短い間でも殺されそうになっている人がいるんなら、救わなきゃいけない、なんていう莫迦らしい正義感を胸にいつでも抱いている。
今の方法で救えないなら、違う方法をやってみよう、なんてこれまた莫迦らしい考えを起こして今回の保護対象には教えることにした。だけど、今まで保護対象にしてきた人のことは言っていない。言えばただ絶望に追い込まれるだけ。あるいは信じずに莫迦らしいと何処かへ行ってしまうだろう。
――だけど、彼は信じてくれた。
ありえない話を、彼はあっさりと信じてくれたのだ。貴方は狙われている、このままでは殺されてしまうから私が守る、なんていうどこかのベターなストーリーのような話に。
「……莫迦らしいわよね」
「んっ? なんか言ったか?」
私がつぶやいた一言に彼は振り向く。
「何も言ってないわよ」
「そっか」
彼は一言いうとまた前を向いて歩き出す。少しだけ汗をかいていて、暑そうだった。
…何が変わるわけでもないけど、今までのことは少し忘れよう。
今は目の前にいる彼をムタンからなるべく守ることだけを考えなければ。
らしくないと思いながら少しだけ私の中でもやもやとしていたものはなくなっていた。
ほんと、進展遅くてすいません。
ちょこちょこ変わる人物の気持ちですが、案外一日一日で物事考えたりしてたらこうやってちょこちょこと変わるものだと思うんです、私は。
『それにしても変わりすぎだろ』って感じかもしれませんが、一日一日を凝縮していきたいです! どうか、よろしくお願いします!