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10.私情

またまた更新に間が空いてしまいました。

なかなか話は進みませんが、どうぞよろしくです。

 巳乃宮があらぬ誤解をしてどこかへ走り去ってしまった後、俺たちは当初の目的である義の荷物を持ち帰るためにひとまず義が学校においていた荷物を全部出すことにした。

 だが、その数が予想以上に多かった。というか、まさに何一つ持って帰っていない状態。

 机の中には親に見せなければいけないはずのプリントがぐちゃぐちゃの状態であったり、教科書がはみ出ているというのにさらに入れようとした形跡が見られたり。

 ロッカーなんかには体操服まで入ってやがった。

 「お前、道理で夏休み前に荷物が軽そうだと思ったら全然持って帰ってなかったんだな」

 「おうよ。あんときはバッグだけで中身すっからかんだった」

 このふざけた野郎をどうして学校は見逃しているんだ? 置き勉とかいう問題じゃねえぞ、この量。

 バッグを持ってきておいて良かった、とひとまず教材をバッグの中に入れてゆく。

 もういらないであろうプリント類は捨てることにし、立花がその作業をやってくれることになった。

 俺は予想以上にあった荷物の数に苦戦していた。持ってきたバッグはたった一つ。学校の通学用に使っている鞄だから尚更入る数には限度がある。

 「教材は入るとしても体操服とかはさすがに……。義、お前持って帰れ」

 「はぁ!? 嫌だ!」

 「なんでだよ!? もともとお前がいけないんだろ! お前がきっちりと持って帰ってればこんなことだってしなくてすんだんだよ」

 「だってさ…一時とはいえ学校という束縛から解放されるんだぜ? 身は軽くなった! だっていうのになんで解放された瞬間に重い荷物を運ばなきゃいけないんだよ!? …そうか、こうなるのも運命だったのか」

 しみじみと義はいう。いや、運命じゃないし。ただ面倒くさがってただけだし。

 「はっ! 運命といえば立花さん!」

 「…なに?」

 「貴女に運命を感じました! 付き合ってください!」

 …わけわからん。

 なんのロマンチックの欠片もない告白に立花は戸惑う様子もなくあっさりと、

 「ごめんなさい。お断りするわ」

 笑うことなく、真顔で言い切った。

 義はもちろん落ち込む。いや、わかりきった結果だったが。もうちょっと段取りっていうもんがあるだろ、義よ。

 だが、落ち込んでしばらくは黙ると思ったが、義は口元をにやりとゆがませていた。小声で、あきらめねえ、とつぶやいているあたりこれは性質の悪い奴になってしまったらしい。

 「はぁ……。ちょっといいかしら?」

 溜息ひとつして立花は鞄を見る。

 「何が入らないの?」

 「えっと、体操服かな」

 そういうと立花は体操服をつかんで、鞄の中に押し入れる。

 「いや、さすがに無理…」

 と、その瞬間に体操服はなぜか入り、その勢いで立花は鞄のチャックを閉める。

 「な、何が起こったんだ……?」

 「ちょっとしたコツよ。プリントのほうも終わったから、ごめんだけど少し学校見学させてもらうわ」

 そういって立花は教室のドアへと歩いてゆく。

 「あっ、もしかしたらあふれるかもしれないから早く持って帰ったほうがいいわよ」

 言い残して、立花は教室を出て行った。

 「恭史!」

 不意に地面に伏していた義が顔をあげる。

 「今日のところは退く! だが、オレはこの運命の結末を見届けなきゃいけねえ! 近いうちにお前の家にいくかもしれないが、問答無用で入るからな! さらば!」

 鞄をもって義は走り去っていってしまった。っていうか、それ俺の鞄だぞ。

 それより、お前のその運命とやらの結末は今さっきわかったろ。あきらめの悪い奴だな。だいたい、俺の家に問答無用で入るってどんな領分だよ、そりゃ。

 グラウンド側を見て義が爆走しているのを見る。そして自転車置き場前についたとき何か白いものが義にアッパーを喰らわした。

 「へ?」

 義が倒れる前にさらに青いものが義の顔面を叩く。そのまま義は倒れた。

 よーく目をこらしてみてみると、さきほどの白いものと青いものはどうやら体操服らしい。

 ――もしかしたらあふれるかもしれないから早く持って帰ったほうがいいわよ。

 不意によみがえる立花の忠告。

 あふれる……もしかして、鞄のチャックぶっ壊して中から体操服があふれてきたってか? いやいや、そんな威力が体操服にあるわけがない…はず。

 「綻びの再構築、ってやつなのか…?」

 後で立花に真相を聞いておこうと決めて、俺は教室の鍵を閉めたりと後始末をすることにした。



 とりあててすることもないけれど、この見慣れない高校を私は見回っていた。

 私の通っている高校とは違って見晴らしがいい。それだけでも私の気分は晴れるような気がした。

 私の通っている高校は街中にあって、見えるとしたら少し遠くにある工場の煙突とその煙。

 学校を出ればがやがやと人がいて、いくつもの車が行き交う。風景は一秒一秒変わる。けれど、それがひどくつまらないものだった。

 最近は学校にもいってなくて、いくら成績がいいから学校に残されている、といってももうそろそろ危ないだろう。

 学費は全て梅規が払ってくれているけど、もしも私がここで退学なんてことになったらさすがに申し訳ない。

 梅規にはムタンのことは一部たりとも知らせてはいない。もしかしたら死ぬかもしれないことに首をつっこんでる、なんて知れたらさすがの梅規も止めに出るだろう。もちろんというか、私の能力――綻びの再構築についても梅規はまったく知らない。

 学校からの連絡が梅規に届かないことだけが今の繋ぎだった。梅規は私がちゃんと学校に通っているものだと思っている。

 「ちゃんとしなきゃね、私も」

 ムタンを追い続けるあまりに学校なんてそっちのけだった。

 ここで梅規を悲しませるようなことがあったら、私は――きっと自分が許せない。

 仮にでも、梅規は家族なのだから――。

 「柄にもないわね、ほんと」

 久しぶりに学校なんて場所にきてしまったせいか、いつもは全然考えもしないことを考えてしまった。

 中庭まで降りてきていた私は、近くにあった木でできた丸椅子に座ってそこから校内をぐるりと見渡した。

 吹奏楽部の楽器の音が鳴り、グラウンド側からは運動系のクラブをやっている生徒たちの掛け声が聞こえる。

 「…………なにしてんだろ、私」

 今でもムタンは動いている。昼間に行動をほとんど起こさないといっても、昨日のような特例もある。今、こののんびりとしている時間にも誰かが死んでいるかもしれない。誰かが私と同じように悲しんでいるかもしれないっていうのに…。

 「あっ、さっきの人」

 後ろのほうで声がして私は振り返る。

 そこにはさっき教室の前で会って、なんだか奇声を上げて走り去っていった女子がいた。

 「なにしてるんですか? そんなところで」

 どことなく強張っている声と顔で女子は聞く。

 「ただのんびりと見回ってただけよ」

 「そ、そうですか」

 しばしの沈黙。やがてその女子は私の前の席に座る。

 「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

 「…なにかしら」

 「えっとー、恭史くんと今同居してるって…本当なんですか?」

 「そうね。同居っていうか、ただ私が居座らせてもらってるだけよ」

 それを聞くと女子は安心したようにほっと一息ついた。

 …この子もか、なんて思ったけど口には出さない。

 「恋人とかじゃーないんですよね?」

 「もちろんよ」

 それを聞いて女子はさらにほっと一息。やがて強張っていた顔がゆるんで笑顔になる。

 「よかったー! なんだか無駄な心配しちゃったな! あははは!」

 唐突に笑い出して、私は少し困惑する。なんなんだろう、いったい。

 「あっ、わたし巳乃宮風音っていいます! 一応これからよろしくです! えっと、あなたの名前は……?」

 「立花竜仔よ」

 「立花竜仔さん、ですね。わかりました! それじゃ、改めてこれからよろしくです!」

 そういって女子――巳乃宮風音は手を差し出してきた。

 私はその意味を理解して、一応握手はした。握った手を彼女は大きくぶんぶんと振って、吹奏楽部で練習があるとかでどこかへ行ってしまった。

 「……また一人、増えちゃったわね」

 短く溜息をついて、私はその場を後にした。


 ◇


 「やっぱり制服でくるんだったな」

 職員室に教室の鍵を返しにいったら、先生に目をつけられてしまい少し説教をされてしまった。

 最初に、お前もか、といっているあたり義も少し怒られたのかもしれない。

 気をとりなおして、これから立花でも探しにいこうかと中庭のほうに立花の姿を発見した。

 「おーい、立花!」

 誰もいないと思って俺は大きめの声で立花を呼ぶ。

 どこかにいこうとしていたのか、俺に呼ばれて立ち止まった。

 「今まで何してたんだ?」

 「校内見学よ。やっぱりこの高校、いいわ」

 本当にそう思っているのかどうかよくわからない声色で言って立花は歩き出す。

 「どこに行くんだ?」

 「用事は終わったんでしょ? なら帰りましょ」

 「校内見学はもういいのか」

 「ええ。さすがに東館のほうにはいってないけど別にいいわ」

 そうか、と一言答えて俺も家に帰ることにした。

 「そういえば立花。さっきまで一緒にいた義なんだけど、なんか綻びの再構築っていうやつ使ったのか?」

 「……どうかしらね」

 顔には出ていないが、どこか意味のありそうな発言。

 深く追求することもないだろうと思って、俺は聞くことを止めることにした。

 「そういえば、貴方」

 今度は逆に立花のほうから俺に声をかけてくる。

「ん?」

 「常に女性には気を使うものよ」

 「…はい?」

 それ以上立花がしゃべることはなく、俺はその言葉の意味がわからないまま家へと帰っていった。


個人的にもうちょっと話を早く進めたいのですが、なんだか一日とばして話を展開させたりするのって好きじゃないんです。

たとえばこの話の後に「その後一週間、特にすることもなく・・・」みたいな感じでその間の話が描かれないっていうのが嫌いなんです。

ワガママみたいですけど、一日一日に気を使う(?)!

末永くよろしくお願いします!

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