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9.懐かしめない風景

テストなんかがあって少し遅れました。

後、今までの話を見直していろいろ誤字や脱字、物語の核となるものではないけど、サブ的な矛盾点の修正などをしましたので暇があればご確認ください。


 夏休み二日目。

 午後の暑い太陽の日差しに汗を流しながらも義の荷物取りを手伝うために高校への道を歩いてゆく。

 ちなみに俺の通っている高校である陽月高校-ヨウヅキコウコウ-は海沿いにあり、学校の裏側のほうにいけば海が見える。

 表側のほうは道路に面していて、近くには駅、歩道橋など意外と通学するには便利なものがそろっていたりする。

 俺は自転車通学になるから、渡るのは歩道橋の前にある横断歩道だ。

 「運命~♪ ランララ運命~♪ う・ん・め・いー!」

 「お前、恥ずかしくねえのか」

 「デスティニ~♪ ランララデスティニ~♪ デ・ス・ティ・ニー!」

 ……聞いちゃいねえ。ってか、それはただ英語にしただけじゃねえか。

 周りに人がいないわけではない。むしろ、夏休みというものがない社会人たちがいる。夏休みに入って遊んでいる人も男女かまわずいる。

 通りかかる人がたまに義のほうを見て、友達とひそひそとなにか話していたりしていたが、義はお構いなしにさっきから同じ歌の日本語バージョンと英語バージョンを歌っている。…いや、ただ“運命”と“デスティニー”の違いだけなんだが。

 「貴方の友達は愉快ね」

 不意に俺の横で一緒に歩いていた立花がいう。

 「愉快っていうかなんつうか…うるさいんだと思うけどな」

 「それでもいいじゃない。しんみりと静かなだけよりかは幾分か気が楽になったりするんじゃないの?」

 「……そういわれればそうかもしれないけど」

 何かそれは違うような気がする、と心の中で思う。

 「にしても、立花って汗全然かかないんだな」

 「そう? うっすらとかいてるわよ?」

 言われて少し目を凝らしてみてみると、確かにうっすらと前髪が額に張り付く程度には汗をかいていた。とはいっても、確か今日の気温は三十二度ぐらいだったはず。だっていうのにその汗の量はないだろ。

 俺はすでに服の襟の部分はすでに汗によって濡れている。服が身体に張り付いて少し気持ち悪い。

 義はといえば、元気そうに歌っているが、汗の量は見た感じ俺より多い。

 「立花って汗かかないほうか?」

 「そうね。あまりかかないほうかしら」

 そっか、と一言いって義を見てみる。

 「フェイト~♪ ランララフェイト~♪ フェ・イ・トー!」

 ……もう知らん。


 …


 義が歌いやむこともなく二十分ぐらい。

 ようやく高校へついた。ちなみに、自転車でいけばものの十分ぐらいで着く。

 「いやー、着いたな! 運命だな!」

 もうよくわからん言動を発している義。

 「あ、ちなみによ、制服じゃないから一応教員には見つからないようがんばろうぜ!」

 「……あっ」

 そうだった。仮にも学校に来るのだから制服でこなければいけないのだった。

 いや、でもそんなに校則とかに関しては厳しくないし、大丈夫か。

 「大丈夫だろ。見つかったら見つかったでどうにでもなるだろうしな」

 「んー。確かにそうだな。別に私服できたからって退学になるわけじゃないしな。もうこれは運命だもんな」

 そんなくだらん運命どうでもいいっての。

 「それじゃ、立花さん。よろしくお願いします! 教師に見つかったらオレから話しておきますんで」

 義が立花のほうを向いて親指をたてる。立花は「ありがとう」といって少し微笑んだ。

 かくして、夏休みが終わるまでは踏み入れることはないと思っていた陽月高校へ俺たちは入っていった。

 たった一日ぶり。なにかを見て懐かしむわけでもなく、校舎までの道を歩く。

 校舎までの道のりは校門から入って五十メートルぐらいある今はもう咲いていない桜の並木道を抜けたところにある。

 俺や義の一年と二年が使う西棟と三年が使う東棟にわかれており、その間に中庭と体育館があったりする。ちなみに、体育館の中に入ると何個か部屋があり、剣道部や柔道部が使ったりする部室もその中にある。文科系の部室などは、主に各棟の一階にあって、もちろんというか職員室も一階にある。俺たちの教室は四階だ。

 グラウンドは西棟の裏側にあり、そこの外周を網ネットで仕切って、その外側にあるのが今俺たちが歩いている桜の並木道だ。自転車置き場はこの並木道を抜けた先にある。

 テニス部などはグラウンドの一角を使っての練習をしている。一角といっても、ちゃんとそこにも仕切りがしてあるから部活をする以外はあまり使用することはない。

 「夏休みに入ったってのに部活とは熱心なもんだよな」

 グラウンド側でサッカー部とかテニス部が部活動をしているのを見て俺は言う。

 「だよなー。オレも中学のときは部活やってたけどめんどっちいもんな、あれ」

 「お前はろくに中学のときもやってないだろ。入って一週間でやめる、なんてことも珍しくなかったぞ、お前にとっては」

 「何をいうか! だいたいな、ずっと帰宅部だったお前に言われる筋合いなんてねえよ!」

 確かに三年間ずっと帰宅部だった俺がいえたことではない。だが、入って一週間足らずでやめるっていうんなら、まだ俺のほうがいいと思える。

 「立花さんは部活動とかしてるんですか?」

 「私? なにもしてないわよ」

 「面倒ですもんねー」

 「それもあるかもしれないけど、いろいろ用事があって大変だから」

 「用事ってバイトっすか?」

 「…そんなところね」

 義はうんうんとうなずきながらなんだかニヤけている。

 立花のいうバイトっていうのは、きっとムタンに関することなのだろう。確かにムタンを追っているのなら部活なんて悠長にやってられないか。

 義がなにやらぶつぶつとつぶやきながら教室へ向かう途中で、教室の鍵を借りてくるといって職員室へいった。

 その間に俺と立花は先に教室へと行くことにする。

 「なかなかいい高校ね」

 教室の前まで来て立花が中庭を見下ろしながら言う。

 「まあ、見た目はいい感じかもな。ほかの高校と比べたことはないけど」

 「私の通ってる高校はもうちょっと敷地がせまいし、街中に立ってる高校だから外見ても道路と建物ばかりだもの。それに対してこの高校は海が見えるじゃない」

 「確かにな。っていうか、街中にある高校ってどこの高校に通ってるんだ?」

 「一応、華岸高校-ハナギシコウコウ-。ここからだと三、四十分かかるんじゃないかしら」

 「華岸高校って…! あの受験で一番受かる確立の低いっていう!?」

 「そうよ。実際受けてみたらそうでもなかったけどね」

 華岸高校。俺の通っていた中学で成績が学年ベスト10に入るぐらいの学力の人が受けても受かる確立は低いという難関高校だ。

 さらに、受験で受かったのはいいものの、授業についていけない人が多数でることのある高校。

 ここらへんの地域でいうと東大並といわれている。

 「お前、すげえな……。授業とかちゃんとついていけてんのか?」

 「ついていけてるわよ。だけど、今は停学中なの」

 一瞬、俺の頭の上にはてなマークがうかびあがる。が、少し考えればなんとなく理由はわかった。

 「ムタン関連か?」

 「…そうね。ムタンを追いかけてよく無断欠席をしてたりしてたの。それで停学。まだ退学にならなかっただけましよ」

 確かに、それだけすごい学校なら無断欠席なんてもってのほかだろう。とすると、それをつなぎとめたのは成績がらみなのだろうか。

 なんにせよ、立花にとって学校よりムタンが優先事項。いや、なにごとよりムタンが優先事項なんだろう。

 「大変だな、立花も」

 「別にいいわよ。例え退学にされても死ぬわけじゃないし。そういう貴方はどうなの?」

 「俺? 俺は…なんていうか、もうどうにでもなれ、って感じだな。どうせ中学のときみたいに受験シーズンになったらまたすこしは真面目になるんだろうけどさ。今のところ気楽にやってるわ」

 「そう」

 一言つぶやいて、立花はずっと海を眺め始めた。

 俺は一緒に海を見るのもなんだと思って、グラウンドのほうに目を向けてみる。相変わらずサッカー部や野球部なんかのスポーツ系のクラブが元気にやっている。こんなに暑いってのによくやるもんだ。

 東棟のほうからは吹奏楽部のトランペットの音が聞こえてきたり、軽音楽部のギターの音が聞こえてきたりする。ほんと、部活動なんてよく熱心にやるな、と感心する。

 「あー! ほんとだ、恭史いるじゃーん!」

 途端に階段のほうから女子の声がする。その声には聞き覚えがある。というか二日前にはまだ聞いていた。

 「職員室でばったりあった」

 その女子の後ろから義が出てくる。

 「義につき合わされてるんだって? 恭史もがんばるねー。わたしの覚えてる限りじゃ、かなりの数あったわよ、義の教材とか」

 まあ、全部置いてきたっていうんだからそりゃあるだろうな。

 ――さて、ここで紹介しておこう。

 この女子は巳乃宮風音-ミノミヤカザネ-。同じ一年で吹奏楽部の活発な女子だ。

 基本、義と同じようにうるさいところがあるが仕切るところは仕切る奴。スイッチの切り替えがうまい、といった感じだろうか。

 高校に入ったころにも関わらず、男女かまわず仲良くしていてとても話しやすい。なぜか義と気があっていて、そのつながりで俺も友達になったようなものである。

 「ほんと、困ったもんだよな。しかもバッグもってこいっていったのに持ってこないしよ」

 「うわー、それはひどいわ。アッハッハ! 義~、もうちょっとしゃんとしないと、いくら中学からの付き合いっていっても絶好されちゃうかもよ~?」

 「ないない。恭史の友達俺しかいねえもん」

 「ほかにもおるわ!!」

 義は冗談だよー、といいながら手に持っていた教室の鍵でドアの鍵を開けて教室の中に入っていった。

 「それより、あそこにいる人も義の手伝いに来た人?」

 「ああ、俺の遠い親戚」

 「へー。恭史くんの親戚にあんな美人さんがいたなんて知らなかったな~。しかも見た感じ年上?」

 「ああ。高二だってよ」

 へえー、といって巳乃宮は観察するようにして海を見ている立花を見る。

 やがて立花が海を見るのをやめてこちら側を向いた。

 「あ、どうも! 初めまして! 恭史くんの親戚だそうで」

 「ええ。わけあって、今恭史くんの家に泊めてもらってるの」

 「そうなんですかー……って、えええぇぇぇえぇえええっ!?」

 巳乃宮の予想以上にでかい声に驚いたのか、三秒間ぐらいさっきまで鳴っていた吹奏楽の楽器の音が止んだ。ついでに軽音楽部の音楽も鳴り止んだ。

 演奏が再開されると同時に巳乃宮は動き出す。

 「え? え? いや? いいの? 一つ屋根の下に男と女なんて!? しかも高校生よ?」

 「いや、妹の部屋で寝てもらってるし。っていうか、そんな不埒なことは絶対にないから」

 立花は巳乃宮を見て、失礼、と一言いって教室の中に入っていった。

 同時に教室の中にいた義が大声に駆けつけた。

 「なんだ!? 運命か!?」

 「お前は黙っとけっ!!」

 ストレート一発。義の腹を抉るようにして入れてやった。吐血こそはしなかったものの、義はしばらくの間、再起不能と見た。

 「とにかく、巳乃宮が考えてるようなことはないから安心しろ」

 何に対して安心しろ、といったのかは自分でもよくわからない。

 巳乃宮はそれを聞いて冷静さを取り戻したのか、落ち着いた顔で俺のほうを向いて一言。

 「恭史くんのエッチーーーーーーーー!!」

 冷静さなんか取り戻していなかったらしい。巳乃宮はどっかに走り去っていってしまった。いや、たぶん音楽室なのだろうが。

 っていうか、なに? このどことなく昭和の香りがするのは。巳乃宮にはあらぬ誤解を生んでしまったらしいが、今度会ったときにでも誤解をとけばいいだろう。こんな些細なことはどうにでもなるさ。


 ◇


 身体が軽い。たぶん身に着けていたものがなくなったからだろう。

 商店街に出て、電機屋の店頭で流れているニュースにふいと目をやる。

 『昨夜十一時ごろ。○○県××市の夏樹町の市民街路上にて一発の銃声が聞こえたという事件がありました。発砲されたと思われる場所には射殺されたと思われる人物もおらず、壁などに銃弾の痕などがないことから、市民が銃声と何かの音を間違えたのではないか、という……』

 今ニュースでやっているとおりに事が収まれば、また楽に行動できるだろう。

 アクセサリー類はついさっき売ってきた。あまり金にはならなかったが、それでもとりあえず一週間分ぐらいの食費にはなるだろう。

 実際、アクセサリーは本当に趣味でつけていた程度でいるものではなかった。戦闘では邪魔になるばかりだ。

 再構築でなんとかして有効活用できないものかと売る前に考えては見たが、どうも使用用途はありそうにない。あるとしても、それはムタンには通用しないだろう。

 「…まっ、これで少しは動きやすくなった」

 もっともな事を言って、俺は電機屋の前から離れていった。


まさか(?)の新キャラ。ろくに立ててないプロット段階ではいなかったです。

いろいろ考え直して、入れてみました。

あと、学校のモデルは自分が通ってる高校をモデルにしております。

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