8.些細な既視感
前の更新から結構経ってしまいました。
物語の進展はないかもしれないけど、どうぞよろしくです!
200.10/9 文章の微修正(誤字修正)
「うぅう……ん」
窓から日の光が差し込んで、俺はそれから逃げるように布団の中にもぐりこむ。夏休みなんだ、存分に寝たって誰も文句はいわないだろう。
「お兄ちゃーん、朝ご飯食べよー」
一階のほうから魅奈の声が聞こえてくる。朝飯? そんなもん休みの日はほとんど食ってないじゃないか。なんで今更……。
「お兄ちゃん? もう立花さんも起きてるんだから……って、完全に寝てるし」
立花? 誰だ、それ。まず名前からして俺の家族じゃないな。魅奈の友達か?
「休みの日ぐらい寝させてくれよ。昨日疲れたんだから」
疲れた……そう、疲れてるんだ。ゆっくり眠らせて……あれ? なんで俺疲れてるんだっけ?
「そんなこといわずに早く起きて!」
がばっ! と布団を俺から引き剥がそうとした魅奈だったが、俺は抵抗して布団に包まるようにして布団を引き剥がされないように抵抗する。
「むっ! 起きてよ!」
何度も布団を引き剥がそうとするが、魅奈の力なんてたいしたことはない。俺の力で抵抗できる……
「起きなさい」
がばっ! と布団が引き剥がされた。布団に包まっていた俺はくるくると回ってそのままベッドから落ちる。
「あ痛たたた……」
「妹さんが起こしてるんだからさっさと起きなさいよ」
頭をさすりながら、ここにきて思い出す。
そうだ、立花っていうのは――一種の超能力者なんだってことを。
…
合掌をして朝飯を食う。
休みの日に朝飯を食うなんて久々かもしれない。いつもなら昼ごろまで寝るか、あるいは朝に起きても朝飯を食うことはなかったからな。
それもこれも、俺が招きいれた俺の斜め前にいる女が俺をだらけた生活から強制的に引きずり出したからだ。
「この漬物。おいしいですね」
「あら、そう? 実は今回のは結構自信があったのよ~♪」
相変わらず、俺の席にさも当然のように座っている立花。そして俺は積み上げられたダンボールの箱の上に座っている。なんだろう、この来客と家族の扱いの差は。もう面倒だからつっこむことはしなかったが、それでも不服だ。
「さっきお兄ちゃん起こすときにね、立花さんすごかったんだよ!? あたしじゃ全然引き剥がせなかった布団を、片手で簡単に引き剥がしちゃったんだから! その後お兄ちゃんベッドから落ちてたし」
あははは、と笑う魅奈。ちなみに、魅奈は休みの日であろうとちゃんと毎朝飯を食べているまじめな野郎だ。
それに対して俺は休みの朝に慣れていない、というかもとより朝に慣れていないから魅奈の少し高いテンションについていけない。
食卓には母さんと魅奈と立花と俺だけがいて、父さんは仕事にもう出たようだ。
「ごめんね、竜仔さん。朝から恭史が迷惑かけちゃって」
「いえいえ。あれくらいなんてことないです」
「あら、そうなの? なにか家でそういうことしてるとか?」
「いや、単にコツさえ掴めばいいというか」
「そんなものなのねー」
おほほほ、という笑い声が聞こえてきそうな会話。ただし笑っているのは母さんだけで、立花はほとんど愛想笑いってな感じがする。まあ、気のせいかもしれないが。
俺はさっさと飯を食べて自室に戻ることにする。女三人の中に一人でいるなんていうのはテンション的にもついていけない。
ごちそうさま、と合掌をするも三人は三人で話しているようで俺の声は聞こえていないらしい。なんとなくそれをさびしく感じながらも俺は自室に戻った。
戻ってみると、俺の携帯に着信があったということを知らせるランプがぴこぴこと光っている。
着信履歴を見てみると、義からの電話だった。
義も朝は寝て昼から行動を開始するはずのやつだから、珍しいなと思いながらもかけなおしてみる。
数回ほど呼び出し音が鳴ってから義が電話に出る。
「朝からなにか用事か?」
『ああ、ちょっとな。いやー、今からじゃなくてもいいとは思うんだけどさ、それでも俺ってやっぱりそういうことって忘れっぽいから今からのほうがいいかなーって思うことなんだけどな』
「……用件はなんだ?」
『まっ、簡潔にいうと高校に忘れた夏休みの宿題をとりにいきたいと思うんだ』
「は?」
『いやさ、宿題のみならず全部置いてきちまったんだわ。それを今日気づいたわけなんだけど』
いや、普通学校終わるときに気づくだろ。
『一緒にとりにいかね? 一人じゃどうも荷物多いし』
「自業自得だろ、お前」
夏休み前に持って帰るものを全部学校においてきたまんまだと? だいたい、夏休みの数日前からちょこちょこ持って帰るものだろ。
『そんなこといわずによ~。な? お願いだ! 優は家の用事があって駄目だっていうしよ~。お願いだ! 今生のお願い!』
ここで今生のお願いごとなど使っていいものだろうか、なんていうくだらないことを考えるのはやめて、家にいてもやることないしな、と思いつつ俺は承諾した。
「で、いつとりに行くんだ?」
『やっぱり昼からのほうがいいかな、と思うんだけど』
「んじゃ昼だな。お前せめてバッグとかもってこいよ? 手持ちで帰るなんて嫌だからな」
わかってるって、と義が半分わかってなさそうな声でいって会話を終えた。
小さくため息をついて、まだ一日しか経っていないのに忘れかけて、机の上にとりあえずは置いといた夏休みの宿題を見る。
その量は夏休みの長さから考えて、一日に数ページやればすぐ終わりそうな宿題の数がある。英語に数学に現国。理科や古典、現代史と一見多そうなものだが、内容は確かそんなになかったような気がする。
「高校ってのも大して変わらないもんだな」
宿題を受け取ったときにも味わったが、案外中学校とは変わらない。強いて言うなら自由研究がなくなったぐらいか。もちろん、うちの高校はそんなに有名な進学校でもないし、そんなにいいほうでもない。生徒手帳に書いてあるものの、そこまで厳しくしかれてはいない校則。ちょっとした自由な高校だ。
……そんな学校だからだろうか。学校に勉強用具を置いて帰る。即ち“置き勉-オキベン-”も許される。他校にいった中学の友達の高校では置き勉が許されないところもあるらしい。
とはいっても、部活にも入っていない野郎が夏休み前に授業道具のほとんどを学校に置いてきている、というのは問題だろう。
こんこん、というドアのノック音がした。
「入っていいかしら」
どうやら立花らしい。俺は入っていいように言うと、立花は静かに俺の部屋に入ってきた。
「貴方、今日の予定は?」
少し俺は首をかしげる。っていうか、なんだ、その新婚さんみたいな質問は。
「昼から友達の用事に付き合うぐらいだけど?」
「そう。それじゃ私も同行するけどいいかしら?」
「……はい?」
まぬけな声を出して聞き返す。立花は真顔でこういった。
「私も同行するっていったの」
つまりなんだ。一緒に行動するってことか。
「って、なんでだよ!? 昼にはムタンも行動を起こさないんだろ?」
「あくまで主な行動時間が夜ってだけの話よ。昨日は基本的に貴方は今までどおりに自由に行動していいって言ったけど、やっぱり昨日のこともあるわ。ここで貴方があっさり殺される、なんてこともあるんだから」
そんな物騒なことがあってたまるものか、といいたいところだが否定はできない。
まだムタンっていう奴を見たことはないが、立花の話を聞いた限りではいつ俺に襲ってくるかわかったもんじゃない。簡潔にいえば、ムタンは人に乗り移って行動する奴だ。もしかしたら、昼から遊ぶ義に乗り移っている可能性も考慮しておくべきだろう。……できるならそれは考えたくはないが。
「そりゃ、用心に越したことはないけど、昼から用事のある友達っていうのは前お前が綻びの再構築ってやつで止めた奴の一人だぞ? 俺が堂々とお前とそいつに会ったら面倒なことになる!」
「だったら影から尾行すればいいのよ。問題ないでしょ?」
「問題あるわ! それでもって絶対に見つからないなんて保障はできないだろ?」
確かにそうね、としばし考える立花。
「それじゃ、これはどう?」
…
「おーう、恭史やっときたかー!」
手を大きく振って俺を迎える義。時刻は昼。つまりは約束の時間だ。
「あれ? お前そのバッグなに?」
「なにって、お前持ってこなかったのか?」
「持ってきてねえよ? だって必要ねえじゃん」
「お前、手持ちで宿題とか授業道具持って帰るつもりだったのか?」
しばし沈黙。そして義はなるほどという感じにポンと手を打つ。
「そういえばバッグもってこいとかなんとかいわれてたような……」
あははは、と笑ってごまかす義。もうどうでもいいと俺は溜息をつく。
「んじゃ、いきましょか!」
「あ、その前にもう一人手伝えそうな奴を連れてきたんだけど、そいつの紹介いいか?」
「えっ、まじ!? ありがとー! やっぱ持つべきものは友だな!」
ばんばんと俺の背中をたたきながら大笑い。いまさらながら、何で俺は常にこんなにハイテンションな奴と友達やってるんだろ、と思う。確かきっかけは中学のときにちょっと悪いことするときに一緒にやった悪友って感じだったかな……? まあ、そんなことはどうでもいいか。
「んじゃ……おーい、立花」
包み隠さず呼ぶ。
◆
――立花の案はこうだった。
「もういっそのこと堂々と私をその友達に紹介すればいいのよ。私と貴方の関係は恋人でも遠い親戚でもなんでもいいわ。そこは貴方が考えて」
「紹介すればいいって、だからそれは面倒なことになるって」
「貴方、前に私が貴方を連れ出して、後でその友達に聞かれたときにときになんていった?」
「え? 確か、夢でも見たんだろって言ったと思うけど」
あまりいい理由とは思えなかったが、あの時にとっさに思いついたのはそんなベタでバレやすそうな嘘でしかなかった。
あまりにも義が心配しているものだから、ごまかしきれるものとは思ってはいなかったが。
「だったらそう言えばいいのよ。デジャヴってものがあるでしょ? 夢でその友達が見たって思ってるなら似たような人に出会ったって、見たことあるな、ってぐらいのレベルの違和感よ」
そういうものなのだろうか?
一応、夢ではないからそこらへんの違和感はあると思うのだが……。
俺はそれを渋々承諾し、少々の不安を抱えながらも昼までの時間をすごした。
◆
「どうも、初めまして。立花竜仔といいます」
少し遅れてきた立花が義に挨拶をする。義はといえばぱちくりと目をまたたかせて立花を見ている。
「あー、俺の遠い親戚で立花竜仔さんだ。訳あって、俺んちに今暮らしてる。あ、一応年上な」
適当な紹介をしてみる。立花の提案した恋人、というのもあったが、それはなんか抵抗があったからやめといた。
義はしばし立花を見てきょとんとする。
「あっ、そうなのか。えっと、オレは榎本義っていいます! 今日は手伝ってくれるっていうことで、どうもありがとうございます!」
義らしくない敬語。年上、というのが効いたか。
「いえいえ。こちらも自分から進んでやってるので気にしないでください」
軽く微笑んで義にいう。義はそれを見てなんだか見とれているようだった。
だけど、やっぱりその立花の微笑はどこか……。
「なぁ恭史!!」
「うおっ! なんだよ?」
「オレが前夢で見たっていうお前をさらってった女性。ものすごいあの人と似てるんだよ! これって運命なのか!?」
小声でどうやら義自身は話しているらしいが、興奮に収まりつかずに立花には義のいったことが駄々漏れのようだ。
「あはは……そうなのかもな。それより、ちゃっちゃといこうぜ」
「運命……いい響きだ! 運命! ディステニー! フェイト!」
俺の言葉は届いていないようだ。いつまで興奮してんだ、こいつは。
「ごめんけど、こいつのこういうちょっとうるさい性格には我慢してくれ」
一人で盛り上がってる義を置いて、立花のほうに駆け寄って囁く。
「別に大丈夫よ。あんまりうるさかったり…その、何? 運命とかなんとかいってるけど、何か変なことしてきたりしたらちゃんと対処はするから」
その対処方法に何か不安はあるが、まあそれはそれでいいだろう。
それよか、早いところ学校にいって義の荷物を持って帰ろう。とにかく暑いんだ。夏休みの昼だからな。
更新スペースはあげていきたいと思っています。
そういえば前回の「X.設定集」はいかがだったでしょうか?