プロローグ
初投稿となりますのでどうか色々ご指摘いただければと思います。
男は全力で走っていた。深夜なこともあり、町の明かりは既に落とされ、空に浮かぶ月の光だけが道を照らしている。人々は寝静まっており、男の足音と荒い息遣いがやけに大きく聞こえる。
こんな夜中に全力疾走せざるを得ないのは、男の自宅に現れた襲撃者から逃げるためだ。襲撃にあった場合、交戦せずに隠れ家に向かうよう命令されているので、近くにいくつかあるうちの1つを目指していた。
(くそっ!)
恐怖と混乱で叫びそうになるのを堪えながら15分ほど走って、隠れ家としている小屋に辿り着く。急いで中に入り施錠し、息を整えながら窓際へ移動して恐る恐る外の様子を伺う。
「撒いたみたいだが……上になんて報告すりゃいいんだ……」
男はある組織に属しているので、襲撃は十分考えられることだったが、問題は襲撃者の正体だった。
全身を覆う黒いボロボロのローブからのぞく顔や腕は白骨化し、その手には一振りの大鎌が握られていた。相対しただけで全身が粟立ち、考える間もなく逃げ出したが、あれは間違いなく――
「死神……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男が隠れ家へ辿り着いたのと同時刻、男の自宅の前に、黒いドレス姿の女性と、黒いハーフコートに身を包む青年が現れる。2人とも男が去った方を向き無言で立っている。やがて、女性が青年の方を向き、よく透き通る声でどこか楽しんでいるように話しかける。
「あのまま殺せたのに、どうして逃がしたの?それに、わざわざ可視化までさせる必要はあったのかしら?」
青年は、彼女と目を合わせようとはせず、静かに答える。
「あいつが下っ端なのは調査でわかっている。死神を間近で直視したんだ、恐怖で今夜中にでも本部に逃げるはずだ」
「とてもいい表情で逃げていったものね。追跡はどの子がやるの?」
「ベイドをつけてある」
「そう」
「……回りくどいか?」
「いいえ、あなたがどんな手段を用いようと私はそれに従うだけだわ」
そう言って微笑む女性は、人形のように整った顔を青年の顔に近づけ、こう囁いた。
「あなた……『死神使いのスゥト』にね」
そう呼ばれた青年――スゥトは、そこで初めて彼女に顔をむけ、ため息をつく。
「はぁ。従うもなにもお前を呼んだ覚えは……」
「ふふっ」
言葉を遮るように女性は軽く笑い、顔を離す。
スゥトは肩を竦め、足早に歩き出す。
「ベイドが隠れ家を突き止めたみたいだ。行くぞ、ティアナ」
「今夜も月が綺麗ね。素敵な夜になりそうだわ」
「月、か……」
あの日も月がやけに綺麗だったな、とスゥトは、3年前に自分を襲った悲劇を思い出していた。
読んでくださりありがとうございます。次回以降は長めに作る予定です。




