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2.塔のウイレム

2.塔のウイレム


 エイプリルはロイに送られて私室まで帰ると、簡易なワンピースとかかとのない靴に着替え、エルを従えて城の迷路のような通路を軽やかに辿り、脇扉から抜けて塔に向かった。


「しっしょー!」

 塔の階段を一気に駆け上がったエイプリルは、ウイレムの研究室の扉を押し開けた。さすがのエルは、エイプリルの3段下をきっちりついてきた。

「姫、ごきげんですな」

「そうよ~、しっしょー」

「どうなさいましたかな」

「父上がね、父上が~、うふふ~」

「はい、はい、お館さまが?」

「師匠に、録音の魔晶具を~」

「はい、はい」

「主声を消して、後ろの声を選びだせって」

「なんですと?」

「だ・か・ら、録音って、声を拾ってるでしょ?」

「そういう道具ですからな」

「父上は、わたくしが書き上げた会話ではなくて、その後ろで話している人の声を師匠に拾ってもらいたいんですって」

「なんですと?」


 エイプリルは、父伯爵に提出したレポートのデュープリケイトをウイレムに渡し、このページの、ここのスケッチを見てね、父上が後ろのふたりの会話を再現できるかですって~、と実にうれし気に説明した。


「ほほぅ、なるほど」

「ね、父上って、わかってらっしゃるわよねぇ」

「さようですな」

「しっしょー、できます?」

「さてな、やってみましょうかな」

「さっすが、師匠です」

「ほっほっほ、まあ、見てみましょうほどにな」


 ウイレムは、まず大きな魔法陣を使って音のすべてをもう一つの魔晶石に写し、次にオリジナルの方を魔法陣に載せ、喧嘩をしているふたりの声と周囲の女声を消した。

 大きく聞こえている野次馬の合いの手を消すと、背後の会話は確かに小さく入っていた。この魔晶具は、エイプリルのリクエストに応えて、人の声だけを記録するようにセットしているから、背後の声も環境の雑音に邪魔されることがなかった。


「姫、お館さまはこの件について、どのくらい真剣でおわしましたかな」

「わたくしは、非常に真剣だとお見受けしました」

「では、姫、お館さまにここまでご足労をお願いいたしますとお伝えくださいますかな。

 地下通路の扉を開いておきますゆえ、まっすぐおいでくださいと。小さな声でお願いいたしますぞ」

「師匠、ありがとうございます」

「そうですな、姫、大当たりでございます。姫は誠に幸運に微笑まれております」

「いいえ、師匠、もめごとの方でわたくしを招きますのよ」


「エルをはじめお付きの者どもの心労がうかがえますぞ、のう、エルよ」

 ねぎらわれたエルは、にっこり微笑んで答えた。

「師匠、楽しいです」

「そうよのぉ、そなたたちはそういう者どもであったわな」

「師匠のご指導のおかげでございます」

「はあ、まあ、そういうことにしておこうよの」


 うふふ、と声を漏らして笑う若い娘たちにわざとしかめた顔をむけながらも、ウイレムの目は優しかった。


魔法陣解説:デュープリケイト

コピー機も印刷機もないので、すべての書類は手書きで写すことになります。すごい作業量。

その際どうしても発生する書き写しミスをなくするのがデュープリケイト、「複製」の魔法陣です。実はなんでも複製できるのですが、魔力が足りないのです。コップを1個複製しようとしたら、中級の魔法使い3人がかりで集中して5分ほどかかり、完成したら卒倒するくらい魔力がいるのです。もう1個コップを買ってくる方がはるかにいいですね。国宝のレプリカを作るときなどに使います。

塔のウイレムの師匠が、古文書の保護のために、紙を別に用意してインク部分だけ「複製」する、特別な魔法陣を創造しました。

文書限定で、「コピー」でいいかも?


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