表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/62

プロローグ

 ルースカリエ帝国第43代皇帝ギボン3世は、間もなく帝国を襲う暴力と破壊について、予見はしていなかったものの、不安は感じていた。

 1000年の繁栄を誇る帝国は、版図の拡大を止めて久しい。武は衰えているかもしれなかった。

 北方にガリエルという蛮国が起こり、周辺を飲みこみながら帝国に迫っていることは知っていた。


 皇帝家の、柔らかい色彩に包まれた居間には、皇帝の一番下の弟とその新婚の妻のほか、7人の妻たちが産んだ子と、孫たちのうち、まだ皇帝家に残っている者が集まっている。その日は、皇帝家の祖先を偲ぶ家族の日だった。

 7人娶った妻のうち、4人を喪った。最初の子は死産、愛した帝妃もともに逝った。

 最後の子は娘で、こちらは元気そのものだ。今も乳母子めのとごとなにやらきゃっきゃと話しては笑っている。


「ドナティエール公」

 皇帝は弟を呼ぶ。

「御前に」

「そなた、妃を伴い、東の領地へ赴くがよい」

「御心のままに」

「その折に、末の姫を連れて、見聞を広めさせよ」

「承りました」

「頼むぞ、あの姫は宮廷に置いておくより戦姫にふさわしい。

 皇家の伝統である。

 戦う血は男だけで継ぐことはできぬ、妻になる女にも戦う血が流れてこそ、強い子が血筋を継ぐ。家訓だ、よいな、そなたも忘れるな。

 帝姫の中であの姫が最も強く戦姫たる血を受け継いでおる」

「御意」


「ベニステラ卿」

 皇帝は次に皇太子を呼ぶ。

「第二妃を伴って滝の城に行け」

「御意」

「皇太子宮は、正妃に代理権を与えよ。

 第二妃と二妃のふたりの姫を伴うのだ」

「陛下、何か御心にかかることでも」

「帝国にガリエル侵攻の報がある。報告は信に足るが、わが国が敗れるとも思えぬ。

 ただ、皇太子領と水道橋を護れ。事態が収まるまで帰ってはならぬ」

「御心が安んじられますなら」


 賑やかに子どもたちが遊んでいる皇帝家の居間が、飛び散った皇家の血で赤く染まるのは、わずか2カ月後、空に白く大きな広姫が掛かる夜明けのことだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] プロローグの締め「広姫」 夜明けの虹を想像してしまいました。 中天にかかる月を想像すれば良かったのかな? 「広姫」どんな光景か気になります。 大・中・広・末で月の満ち欠けか、月の見た…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ