「家でも建てるか」
新庄は砂漠で砂を回収する。
『マジッククラフト』では、スコップで直接穴を掘ることはしない。プレイヤーは魔法使いなので、魔法で穴を掘る。
左手で魔導書を持ち、右手をかざしたところから砂が消える。消えた砂は魔導書に格納され、開いているページに保管される。
なお、この砂の回収に魔力を消費するのだが、色々作れば消費する魔力はどんどん減る。
その辺りは普通のクラフトゲームと同じである。
ゲームであれば砂漠でも真っ直ぐに掘り進めることも可能だが、ここは現実。掘ってできた穴に他から砂が入り込み、穴を埋める。
周囲に砂岩をおいていくが、それでは追い付かなかった。
そのままでも砂を大量に回収できるので無駄ではないが、新庄は深い穴を掘りたい。
砂以外の素材が欲しい。石素材だ。石があればギフトで色々と作ることができる。
「砂岩で周りを固めても限界があるな。広く固めても風で穴が埋まる。
……壁も要るな。屋根も欲しい。家でも建てるか」
井戸のように、縦に深い穴を掘るには入り込む砂をどうにかする必要がある。そうなると、家を建ててしまうというのが良い考えのように思われた。
新庄は砂岩を使い、小屋のようなものを作ることにした。
「よく考えれば、屋根も無いところで延々と砂掘りをするのは間抜けだったな。ゲームの感覚が抜けきっていないのは問題だ。
と、壁はこれでいいか」
魔力効率は悪いが、魔力の回復はそこまで時間がかからない。大量の砂を回収していたので、そこから作られる砂岩も同様にたくさんある。
まずは豆腐建築。四角い建物を作ればいいだろうと、北に入り口を作って、四方を囲んだ。
あとは天井を作ればいいのだが……。
「落ちてくるよな、そりゃあ」
壁にくっつけるように砂岩を置こうとするが、置いた砂岩は重力に引かれて下に落ち、その衝撃で砕けた。
これもゲームでは無かった仕様だ。
「仕方がない。上手く落ちないように……あ。
そうだった。ゲームじゃないんだから、サイズは自由だったな」
ゲームでは、砂岩は1つのブロックとしてしか作ることができない。イメージは1mの立方体だ。それを積み上げて物を作ることができるのだから、それで問題ないのである。
しかし、現実となって拡張されたクラフトのギフトにその様な制限は無い。素材さえあればどんな大きさや形状であっても問題ないのだ。
新庄は魔導書の中で厚みはそのままに、5m×5mの砂岩を作ると、それを天井として配置した。
「壁もあとで作り直そう」
一先ずの寝床は確保された。
穴掘りもこれで順調に進むだろう。
ただし。
「明かりの確保も考えなきゃダメか。
これは、長期戦を覚悟しないとダメだな」
問題は山積みである。
新庄は、それでも目に見える問題だからなんとかなるだろうと覚悟を決め、穴掘りを再開するのであった。