「謝れば、許すのですか?」
襲撃してきたのはほとんどが30か40近い男である。
少しは女も混じるが、その数は少ない。
オアシス周辺には大量の死体が残ったが、それらは新庄が全て回収した。
襲ってきたのが食い詰め者なので、使えそうな持ち物はほとんど無かった。せいぜい、衣類ぐらいである。
もっとも、衣類は汚く、そのままでは燃料にも使えないものばかりであったが……。
「シンジョウさん! ご無事ですか!?」
襲撃から遅れること2日。
オアシスにラクダに乗ったクラークがやって来た。
彼は、新庄の様子を確認しに来たらしい。
時間がかかったのは、来るまでの間に別の難民を追い散らしていたからだ。
今回発生した難民は数百人規模で、攻め手となった男たちの他に、女子供も多くいた。クラークは、そんな者たちの相手もしていたのだ。
「結構な数に襲われたよ。食い詰めた難民か何かだと思うけど」
心配そうにしているクラークに、新庄は冷たい視線を向ける。
お前らが原因だろうが。言外にそういった含みを持たせて。
新庄も馬鹿ではない。今回の襲撃者は、オズワルドに追い詰められて破滅した者という事ぐらい、想像できていた。
言われたクラークは、新庄の態度で青ざめる。
ラクダから降りて平伏する。
「申し訳ありませんでした!」
日に照らされ熱くなった砂の上で土下座するクラーク。
新庄はやや呆れた顔で、そんなクラークを見た。クラークには、そこまで怒っていないのだ。
だが、彼の雇い主には怒っている。
「帰ったら、ご主人様に「新庄はかなり怒っていた」とでも報告してくれ。
買い出しをしたばかりだから、しばらく町に行かないが、行ったところで会おうともしないだろう。そう付け加えても良い」
新庄はそう伝言を頼むと、詫びの品を受け取り、クラークを追い返すのだった。
襲撃の後始末が終わると、新庄と加倉井は日常に戻る。
新庄はオアシスで森の拡張と水路作りをして、たまに地下で白い蠍を狩る。
加倉井は外に出て、モンスター退治の遠征だ。
加倉井はいいが、新庄はそれだけではいけない。
この世界に来た理由が「モンスターの間引き」なのだから、たまには新庄も外でモンスターと戦うべき。
元から誘われてもいたので、新庄は加倉井の狩り場に連れていかれた。
オアシスの環境は良い方に整えられ、食料生産も、あと半年もあれば自給が可能になるだろうところまで来ている。
もう少し環境を整えれば、新庄が手を加えずとも、数十年は維持できるようになるだろう。
ならば、少し離れて様子を見るのもいい。
新庄は、気分転換も兼ねて狩りをしていった。
「結局、オズワルド? その人はどうするのです?」
「ここまで謝りに来るなら、必要以上に手は出さないけどね。それまでは嫌がらせを続けるよ。
前回の悪意全開の襲撃とは違うけど、こうやって迷惑をかけられているし、簡単に許すことはないね」
砂漠を北上すると、6日ほどで山の方に出る。
そこまで行くと別の町があるのだが、2人はもっと手前の場所で狩りをしている。
砂漠よりも岩場の多い場所だったが、そこには黒い蠍のモンスターが出現する。
これは地下にいる白い蠍の成長しきった姿だが、2人はそんなことも知らずにモンスターだからと狩りを続けた。
2人の狩りには、かなり余裕がある。
そこで2人はオズワルドをどうするのか、雑談の中で軽く扱う。
「謝れば、許すのですか?」
「時と場合に依るけどね。取り返しがつくなら、そりゃあ、許すよ」
加倉井は、新庄はオズワルドの事を許さないのではないかと考えていたが、許すというので驚いた。
「やったことが殺人未遂だからね。簡単には許さない。
頑張って謝るなら許すけど、ただ軽い気持ちで謝るようなら、そこで甘い顔はしないよ。
ま、誠意の一つでも見せてもらわないと、納得はできないさ」
加倉井は、こちらは誰も死んでいないから、こんな事を言えるのだろうと思った。
自分が殺されたら、新庄は絶対に許さないのだろうと思うと、ほんの少し、嬉しくなる。
それはモンスター狩りの間の、ちょっとした雑談の一幕である。




