「……たぶん、男性恐怖症」
話し合いは、すぐに終わった。
新庄は多少のワガママならば受け入れるつもりがあり、加倉井の側も無茶を言うような人間ではなかったからだ。
お互いが良識と節度を持つのなら、すり合わせの必要すらない。
話し合いで決めた大枠は3つだ。
食料は折半。公平にすべて二分して、お互いに自分の食料は自分で管理する。オアシスの水と周辺の植物も同様で、過剰な権利主張をしない。
オアシスの水を汚さないように、お互いが気を付ける。
そして、新庄は与えられた家には定住しない。クラフトのギフトで、自分で自宅を作る。
前の2つは常識の話だ。
ただし「口にしなくても分かるだろう」と、そうやって曖昧にしないためにも、あえて言葉にした形だ。
決めた内容も曖昧ではあるものの、相手の人格が分からないのだから、この程度の事でも口にした方がいい。
新庄は会社員として、可能ならば明文化して文章に残したいのだが、紙やボールペンも無いので、それは諦めた。
残る1つ、「新庄が家から出ていく」というのは、本人の希望である。
新庄は娘と同年代の女の子と一緒に暮らしたくないので、感情面からそのようにしたかった。
そして加倉井も新庄と一緒に生活したくないと思っていたようなので、そのように提案したのだ。
「……たぶん、男性恐怖症」
砂漠に出た新庄は、周囲の砂をギフトで回収しながら、先程の話し合いを反芻する。
新庄は大人であり、加倉井は子供だ。
正しい大人としては、加倉井が嫌がろうが同居を認めさせるべきだっただろう。
しかし、加倉井の態度は「知らない男と一緒に生活する」事に忌避感を覚えているといった風ではない。
トラウマ、PTSDのような反応だと新庄が考えるほどの恐怖を感じている様子であった。共同生活など、まともに出来そうもなかった。
加倉井は家の探索のときも、できるだけ新庄と同じ部屋にいないように注意をしていた。
それでいて新庄がいるときに家の探索をしたのは、自分の弱味を新庄に覚らせないようにするため。一種の自衛だ。警戒しているからこそ、視界に納めておきたかったのかもしれない。
「協力体制は、話の進め方次第。
こちらから指摘しなければ、誘導は簡単だと喜ぶべきかな」
大人というのは、子供を助けられる人間の事を言う。ただ、歳を重ねても大人とは言えない。
大人である新庄は、関わりたくなくても加倉井を助ける側である。そういう人間だ。
新庄は寝床の確保のため、黙々と素材の回収をするのだった。




