「狙うのは、奴の妻子。シドニーの町にいる、身内を皆殺しにしてくれる」
石油火力発電の研究は、迷走していた。
最初の研究チームはまともな研究者の集まりだった。
彼らがそのまま安心して研究出来る環境さえ整っていれば、一年は無理でも、数年で成果が出ていたはずだ。
少なくとも、現状よりはずっと良い
次の研究チームは、まともではあったが現実が見えているという意味でもまともだったため、保身に走り、経営陣を早い段階で見限った。
予算こそ青天井であったが、ノルマが厳しく、現実的ではない。予算を与えているのだからと経営陣から頻繁に成果を求められ、徐々に前に進んでいるにも関わらず、彼らが求めるレベルに達していないと叱責される。
付き合いきれないとばかりに、上手く解雇されて逃げ切った。
その後は、まともな研究者が集まらない。
二陣目が生け贄に呼んだ者も逃げ切っていたし、既に評判が最悪な彼らに近づく研究者などいなかったのだ。
代わりに集まったのは“自称”研究者で、彼らは予算を食い潰しながら、偽の成果物で時間を稼いでいた。
「馬鹿な連中だよな。こんな適当な、数字を書いただけの書類に金を出して」
「外では言うなよ。連中の耳に入ればコトだからな」
「わーってるよ。それよか、連中を誤魔化すための施設、発注は済んだよな?」
「おう。また横流しすんぞ」
彼らは甘くみていたが、経営陣とていつまでも騙されるほど愚かではない。
最初こそ喜んだが、すぐに疑念を抱き、内偵を行い、横流しと研究詐欺の証拠を掴んだ。
地球で嘘の研究成果を発表した詐欺師と違い、彼らは全財産没収のうえ、縛り首にされた。
「あの詐欺師どもは新庄の仕業に違いない!
我らの研究を邪魔するために送り込んだのだ!」
被害妄想。
新庄憎しの経営陣は、一時的な喜びの反動か、完全に目が曇った。
自分たちが詐欺に遭ったのは、新庄の妨害工作だと決め付けていた。
残念ながら、彼らを監視していたロンなどは、新庄が関わっていない事を知っている。
破滅へのカウントダウンを行う彼らは周囲から注目されているので、官民問わず多くの人間が彼らの自爆を知っていた。
分かっていなかったのは彼らだけである。
「こうなれば、最早破滅は避けられん」
資金集めに危険な集金をしていた彼らは、どう足掻いても逆転できない事を受け入れた。
「ならば、せめて一矢讐いてやらねば死んでも死にきれん」
この場合、破滅とは命を含む全てを失う事を意味する。
既に妻子は逃げている。
地位も、名誉も、誇りも残っていない。
ならばと、彼らは新庄への八つ当たり、彼ら視点では復讐を行うべく、行動を開始した。
「狙うのは、奴の妻子。
シドニーの町にいる、身内を皆殺しにしてくれる」
新庄は世間体を考え、多くの未亡人とその子供を養っている。
名義上、彼女たちは新庄の妻であり、子供である。
新庄本人にその意識は無いし、思考の欠片にも影響を及ぼさない関係であるが、それを知るのは当事者と関係者だけである。第三者には知られていない。
彼らは、それが復讐になると信じて、行動を開始した。
それが監視者達に筒抜けとも知らずに。




