「下らない感情に囚われ、まともな判断も出来ないとは、愚か、いや、憐れだな」
「ふっざけるんじゃぁない!!」
新庄と話をした研究チームは、出資者である電車の経営陣相手に、今後の研究方針について話をした。
最初、石油火力発電を止めてゴーレム式の発電、もしくはゴーレム式の電車モドキを研究してみたいと聞かされた所までは良かった。
経営陣も、失敗時のリスクが大きい火力発電よりも、ゴーレム式の方がまだ問題が小さくなるだろうと考えたからだ。
しかし、このアイディアの出所が新庄と分かると、罵声が飛び出した。
「新庄から独立しようと言うときに……っ!
その新庄に頼るとは、貴様らにはプライドというものが無いのか!!」
罵られる研究チームは、そうやって激昂する経営陣を冷めた目で見ていた。
言いたい事が分からないわけではない。
しかし、現実に予算は有限であり、爆発事故でかなり無駄にしてしまっている。
今後も同じような失敗をした場合、すぐに研究予算が底をつき、にっちもさっちもいかなくなる。
「だいたい、そんな事が本当に可能であれば、新庄が自分でやっているだろうが! できもしない事に金と時間を浪費するつもりか!!」
それに、爆発事故で死んでしまうかもしれない。
今回は死なずに済んだが、次に何かあったとき、自分が死ぬかもしれない。
そのリスクが回避できるならそれで良いではないかとも考えている。
新庄を頼ってでも、生きて成果をあげる事こそ彼らにとって重要な課題であり、よりよい手法があるならそれを選択すべきなのだ。
凝り固まった考えで誤った道に進みたくない。発想は自由であるべきだ。
それが研究チームの総意である。
「言いたい事はそれだけか?」
「なんだと?」
「下らない感情に囚われ、まともな判断も出来ないとは、愚か、いや、憐れだな」
研究チームの主任は、経営陣の罵声が収まりつつあったタイミングで、静かな口調で罵倒を返した。
「そのプライドが原動力になる事もあるだろう。しかし、今の貴様らにそれは期待できない。
安全な所から口だけは出す卑怯者には、何も成せはしないだろう」
「貴様っ!」
「研究の変更。この話が飲めないようであれば、我々は手を引かせてもらう」
「出ていけっ! 二度とその面を見せるんじゃない!!」
思わぬ反撃に頭に血が上った経営陣は、研究チームを勢いで解雇してしまう。
見下げ果てたと、経営陣を見限る研究チーム。
両者の間には、大きな、埋めがたい溝ができてしまった。
「あんな連中に頼る必要はない! もっと良い、すなおな研究者に依頼を出せ!!」
こうして彼らは、新庄憎しから、石油火力発電の研究に固執していく。
彼らの怒りは現場にまで届き、従業員たちは戦々恐々とした日々を過ごす事になる。
現場は新庄に対しさほど思うところが無いので、経営陣の怒りが理解、共感できず、その矛先が自分に向きませんようにと祈るばかりだ。
こうして、石油火力発電の研究はそのまま続けられるのであった。




