「あんまり“待て”はしないのですよ?」
全然自分に手を出さない新庄。
結はその事に不満を持ち、直談判をした。
「『ずっと傍に居てくれ』って言ったのですよ! どう考えてもプロポーズじゃないですかぁ! なんで手を出さないのです!!」
結にしてみれば、二人はもう結婚したのだ。
ならば結ばれるのが自然な流れであり、手を出さない新庄が不実という事になる。
初日は結がいっぱいいっぱいだったので仕方がないにしても、その次の日からは大丈夫だったはずだと主張する。
しかし、ここで新庄の表情を見た結は、新庄にそういった意図がなかった事に気が付いてしまう。
結の機嫌が更に悪くなる。
「ここに来た当初、新庄さんがアタシに手を出さなかったのは、分かるのですよ。未成年相手の、略取になるのです」
日本では、未成年相手に成年が手を出す事を良しとしない。
ある程度年齢が離れていれば、成人後でも白い目で見られる事も多い。
新庄が当時の加倉井に手を出さなかったのは、日本人の常識で見れば普通の事だ。ここが異世界だとか、そういった理屈を捏ねなければ正当性が無いのである。
「でも、今の私はもうすぐ30なのですよ。見た目はともかく、中身は大人なのです」
なお、未成年者が保護されるべきなのは、「正しい判断をするのに足る経験が無い」「経済基盤を持っておらず、相手のいいなりにならざるを得ない状況に陥りやすい」というのが理由だ。
これに加え児童の場合は、「体がまだ未成熟であるから」と言われる。世の中には年齢が一桁の母親という話もあるが、若年の出産はリスクが高いのは常識であり、そのような例外は考慮すべきではない。
結の場合は、すべての条件をクリアしているので、それに当てはまらない。
法的な話をするなら、問題は無いのだ。
ここまで、新庄は無言。
自分の中の感情を上手く言語化できないからだ。
昔であれば理性、理屈を全面に出して説得できたが、今の結にそれはできないため、拒む言葉が出てこない。
「……少しだけ、心の整理をする時間をくれないか?」
じっと睨む結に根負けした新庄は、ようやくそれだけ、絞り出すように言った。
「ここ二十年はそういう事をしてこなかったから、その、うん」
とても情けない話ではあったが。
「夜の誘い方を忘れてると言うか、だな。
どう切り出せばいいか……」
せめて結を理由に拒む事は言わず、ほんのちょっと、猶予を下さいと頭を下げた。
これには結も言葉を失くし、苦笑いするしかなかった。
まだ心まで若返った結なら、思うままに勢いで動けたのだろうが、新庄は人生の守りに入った壮年である。
無理を言えない部分は、確かにあった。
「あんまり“待て”はしないのですよ?」
こうして新庄と結の関係は、はっきり決まったのである。
要所は新庄が押さえるのだろうが、普段は結が決めていく。
どこにでもある、普通の夫婦関係に。




