「若いうちは挑戦するべきなんだろうね」
劣化が想定とは大きく違う。
その状況に新庄は違和感を抱いたが、異世界なのだからそういう事もあるのだろうと、現実をそのまま受け止めた。
こういった時に「ありえない」「こんな事が起こるはずがない」などという、現実を直視しないタイプの考え方は、あまり良くない。
目の前の現実を受け入れた上で、「なぜそうなるのか?」と考えるのが建設的である。
「仮説その1。この塔の素材にはドラゴン素材を使っている。その素材が何らかの影響を与えて、劣化を食い止めている。
仮説その2。神罰の雷を延々と受け止めた事で、この塔に何らかの変化が起きている。
大きくは、この二つぐらいしか要因は無いと思う訳だが」
新庄は検証のため、別の素材で塔を作り、その劣化速度を測定する事で比較を行おうと思った。
だが、そもそも素材が変われば劣化速度が違うのは当たり前である。
同じ素材でほぼ同じ高さの塔を作る事も考えたが、それには手持ちの素材が足りなかった。
残念ながら、思い付きの検証は事前準備が足りていないため、また今度という事になった。
「これはこれで、厄介事のネタになりそうな予感がするんだよな」
新庄はドラゴン素材を原料に、各種資材を作成して多用してきた。
もしもドラゴン素材が理由であれば、他の物にも何らかの影響があるかもしれない。
それを考えると、新庄は電車を始めとしたいくつもの事業がどうなるのかと、頭を悩ませるのだった。
電車の運行は特定の2都市間を行き来するだけなので、時刻表の管理は非常に簡単である。
今はまだ電光掲示板も必要ないし、アナウンスもまともに行われていない。
客向けにやっている事と言えば、電車の到着や発車を知らせる銅鑼が鳴らされるのと、車掌などの警笛、電車に付けられた汽笛が精々である。
その他の情報伝達手段として、張り紙を張り出せる掲示板が設置されている。
こちらは電車の運行側から客への連絡として、通常には無い臨時の運休や、客向けの注意事項が書かれる事になる。
客向けではないので、普段は客が何かできないようにと、ガラス戸を使って掲示板への張り出しが行えないようにしてある。
こうしないと、客の一部がイタズラで張り紙を持っていったとか、偽の張り紙をするなどといった事が行われてしまう。
管理者側としては、無秩序な状態になってもらっては困るため、利用は制限せざるを得ないのだ。
「新庄様。お客様用の掲示板が欲しいという話が上がってきています」
「うーん。そこまで必要な物かな? ちゃんと管理しないと迷惑行為の温床になるし、それでこちらに責任を問う流れができそうな気もするんだけど。
そういった事が起こり得るのを前提に、無料で使える場所を提供してみる? それともガチガチに管理したものを使ってみるかな?
個人的には、まだ併設したサロンや広告スペースだけでいいと思うんだけどねぇ」
そうやって電車と駅構内の情報を運営側が一括管理していると、利用者側も自由に使える場所が欲しいという話が上がって来た。
目の前に実例が一つあると、「自分たちも」と考えるのはよくある話だ。
ただ、それをどのようにするかで形態がかなり違ってくるため、新庄は乗り気ではない。
場所を使うのは当たり前だが、さらに管理の手間を大いにかけるか、かけないかでその後の流れが全く違ってくるのだ。
新宿にあった掲示板で「XYZ」の落書きが多発したのと同じである。
利用者は運営や周囲の迷惑について考えてくれないのである。
「このままというのもあまり良くないと思うので、試験運用をしてみたいと思います」
「まぁ、試すだけならいいか。でも、一回始めると、次を要求されるようになるのは覚悟しておいてね」
「はい。ありがとうございます」
新庄は乗り気ではないが、周囲のスタッフはやってみたいという気持ちに溢れていた。
面倒ごとになるのは分かっていたが、自発的な取り組みに「やるな」とまでは言わない。
これも経験と、自由にさせる。
「若いうちは挑戦するべきなんだろうね」
面倒事を避けるために手間を惜しむ。
それは賢い選択かもしれないが、未来のある選択ではない。
スタッフの若さ、未来のある行動に、新庄はどうやって手を貸そうかと考えるのだった。




