「そんなものは、むしろワシが聞きたいわ!」
船は、しばらくすると近くを通りかかった漁師に発見された。
「なんでこんなところに船が?」と、慌てて町に連絡したようだ。
新庄が置いていった船は、フォーン商会の持つ、大きな輸送船だ。そんなものが五隻もあれば、かなりの人と物を運べる。
海賊の船だった場合の危険性は言うに及ばず。自分で近寄らず、町に連絡したのは当然の反応だ。
「なぜ、あんなところに船があったんでしょうね?」
「そんなものは、むしろワシが聞きたいわ!」
町の兵士が動き回り、船はオズワルドの元に戻った。
船に付けられている旗、それが所有者の証明となった。船が消えた件も知られているので、特に何か疑われることはない。
ただ、なんで町にあった船がいきなり別のところに行ったのか、その理由を根掘り葉掘り聞かれることとなった。所有者なので、兵士としても、聞かざるを得ない。
当たり前だが、理由が分かっていても、どうやってそれをしたのか分からないオズワルドに答えようがない。
兵士の方も、まともな答えが返ってくるとは思っておらず、形式的に聞いただけなので、深く突っ込むことはなかった。
「船の状態は、どうだ?」
「奪われたときから何も変わっていませんね。荷物などもそのままです」
そして双方に無駄なやり取りが終わったあとは、船を港に戻し、その状態を確認した。
幸い、船と荷物は無事である。
今回は宣戦布告のため、新庄にそういった実害を与える意思がなかった。
オズワルド包囲網が完成すれば、容赦されなくなるのだが。わざわざそこまで教えるつもりがない。
とにかく、物取りの被害はなかった。
オズワルドは今回の被害をざっと計算するが、その被害の大きさに頭を抱えたくなった。
「町の連中の様子はどうだ?」
「……最悪です。オズワルド様を「呪われた商人」と言い出す者が現れ、店を辞めると言い出した者が多数。取引先も、いくつか離れていきました。
中には先日の、領主の流した噂から「手を出してはいけない相手に粗相をした」と考えついた者もいます。
それと、船ごと荷が奪われたことで、その荷は本当に大丈夫なのかという話まで出ました。いつものような商売はできません。
このままでは、危険です」
オズワルドの部下は、町中の噂話を確認してきた。
その結果は最悪で、かなりの風評被害が出ている。何もしなければ、この町での商売を“損切り”しないといけないほどである。
これはシドニーや新庄が予測した結果を大幅に上回る影響だった。
船が消える。そんなあり得ない話が起こったのだから、オズワルドはいったい何をしたんだと皆、興味津々で噂をしている。
そして誰かの予測がまるで事実のように語られ、噂はどんどん変質していく。質の悪い伝言ゲームは、一切の遠慮もなく、オズワルドの愚行を広めていった。
オズワルドという成功者を、公然と多数で貶める機会に群がっているのだ。
そんな悪意にさらされた商会が無事なはずもなく、客と取引先はどんどん減っていく。
オズワルドの所へ、新庄のオアシスまで行商に行ったクラークが戻って来たときには、フォーン商会は死に体だった。




