「うわー。鍵どころかドアがないんですけどー」
新庄たちが現れたオアシスの近くには、白い煉瓦の家が一軒あるだけだ。他に家はない。
よって、この一軒が二人の家となる。寮のような物件だ。
新庄はなんの恐れもなく家の中に入り、内装と部屋割りを確認する。
二階の無い平屋の中は床だけ板張で、壁は煉瓦がむき出しになっている。断熱効果は無さそうに見えた。
煉瓦の厚みは10センチ以上あるので耐久性に不安はない。嵐が来ても、恐らくは大丈夫だろう。ただ、地震があったときが不安なので、この辺りで地震が起きないことを神に祈った。
窓にガラスなどはなく、木の板で開け閉めするのが基本のようだ。灯りがないので室内は薄暗い。
ガラスはギフトで砂を焼けば作ることができるので、早急に対応するべきだと、新庄はガラスの確保を上位の予定に組み込んだ。
部屋の数は5つで、うち2つにベッドがある。ベッドがあるのだから個室用と思われる。
残りの部屋はキッチン1つと、物置2つだろう。水回りと棚があるので、新庄はそのように判断した。
ベッドは枯れ草の上にシーツを被せただけの物だが、無いよりはマシ。スプリングもなければマットもないので寝心地はお察しである。
残念ながら新庄のギフトで寝心地の良いベッドを作れるかどうかは未知数のため、ベッドについては妥協するしかないかと、天を仰いだ。
「うわー。鍵どころかドアがないんですけどー。
あ、ランプがある。油は……あったけど、どうやって火を点けるのよ?」
新庄が家の中を見て回っていると、遅れて加倉井も入ってきた。そして思った以上に中身の無い家の中に愚痴を漏らす。
新庄はそういったことを口にしないが、同感である。現代日本の生活に慣れた身に、この家での生活が耐えられるものだろうか。
加倉井ほど露骨ではないが、新庄も不安を抱いてしまう。
もっとも、素材が集まればすぐに生活環境を整えようと心の中で誓う。
他にあったのは、キッチン内の食料だ。
そのすべてが保存の利く乾物などで、小麦粉らしき粉に、すでに焼き上がったパン、大豆のようなもの、干し肉など。食べ過ぎに注意していれば、確かに一月分はある。
調味料は塩のみだったが、これは5キロはあり、一月分と言わず、しばらく持つだけの分量があった。
ただ、塩の確保は急務ではなくとも、いずれ自分で確保しなければいけない。ここにあるだけで残りの人生で使うすべての塩を賄えるわけではないからだ。
ギフトがあるので海まで行けば塩の確保は容易だが、今すぐにどうにかできることではない。新庄は頭の中の予定表に塩の確保と書き込んだ。
そうして二人はバラバラに家の中を物色したが、すぐにそれも終わる。
家は小さく部屋は狭く。見るべき所が少なかったからだ。
神様が用意した家だからと期待していたが、思った以上に不便な住環境。
話し合いをしようとする二人の表情は、どちらも暗かった。