「なんで電車で自殺したいだなんて思うかなぁ」
新庄の電車は、新庄がいま出来る最高の技術で作り上げたものになる。
ギフト能力を使う新庄でギリギリという事は、現地の人々にして見ればオーパーツであり、間に存在する技術の数々すら簡単に理解できない代物だ。
「があぁっ! どうすればここまで均一に物を作れる! 鋳物の精度じゃねーぞ、これは!!」
リバースエンジニアリング、現物を解体しての技術研究は行うものの、機械部品の加工精度のレベルが隔絶しているので、劣化品すら難しい。
モーター回りに使うコイル、その銅線の加工は完全に均一でないとダメなのだが、それが分かっていてもどうにもならないのが現状である。
新庄からこれらの再現を頼まれた者たちは、その事に心を折られそうになりながらも、なんとしてでも物にしてやろうと食らい付く。
目の前にお手本があるので、どうすればいいのかを研究する日々。
負けん気の強い技術者にとって、新庄の電車は越えてみたい、いつか越えてみせると思わせるだけの壁であったようだ。
そういった技術者や、電車の運行に関わるようになった商人らは、まだいい。
彼らには欲があり、前に進む気概があったからだ。
善悪関係なく、気力がある人間はちょっと手を貸すだけで、あとは自力でどうにかする。
深刻なのは、欲、気力がなくなった連中であった。
「またか……」
「う、うえぇぇ」
「口をゆすげ。だから飯は食うなと言っていたんだ……」
駅の面倒ごと。
その中でも特に問題があったのは、駅での自殺である。
電車は「一瞬で死ねる便利なツール」、駅は「死にたい者が最期に往く施設」扱いされてしまったのだ。
駅のホーム、電車の近くでは転落事故が起きるかもしれないと、新庄は日本の駅を参考にせず、不便であっても飛行機のような、電車が到着してから切符を確認してホームに人を入れるやり方を採用した。
利便性を考えると時間がかかって仕方がない方法だが、まだ利用客が少なく、混雑しないのだから問題ないと判断した。
人が少ないなら押し合いで転落する可能性は低いのだが、こちらの町の人はまだ電車に慣れていない。
蒸気機関車で反対側で暮らす人は慣れてきたが、それでもそういった事故が多発している。
どちらも歴史の無い、まだまだ新しい技術なので、事故が起こりやすいのだ。
ならば蒸気機関車との差別化も兼ねて、新庄はより安全な方法を採らせて貰った。
なのに、電車は自殺に使われる。
駅は線路よりも侵入への守りが弱いのだ。人を使って侵入を防いでいるが、それでも自殺希望者の侵入を防ぎきれない。
「電車で死ぬのがステータスになってやがる……」
「噂が浸透するまでの辛抱って事らしいが、上手くいくのかね?」
新庄はこの可能性も考慮していたが、とれる対策は「電車に跳ねられ死んだ者は、死後も線路に囚われて電車に跳ねられ続ける事になり、永遠に苦しむ事になる」という噂話を流させた。
こんな話を持ち込めば電車と線路の悪評となるのだが、それでもやらないよりはマシだと、苦肉の策として噂の定着を目指している。
「どうか、安らかに眠ってください」
ただ、それだけだと後追い自殺を誘発する可能性もあるので、駅の近くに社を作り、「社に向けて祈り、自殺者が駅から解放されるように願うように」と誘導した。
自分が後を追えば、先に死んだ者は永遠に苦しみ続ける。だから生きている者は死者が解放される事を願うのが責務だと、そう思わせるのだ。
これも気休め程度の対策であるが、やらないよりはマシ。
「なんで電車で自殺したいだなんて思うかなぁ」
こればかりは、自殺したい人間にしか分からない感覚である。
いや、それぞれの事情があるので、各々、自分の事情しか分からないだろう。そういった感覚は、自殺者同士でも分かり合えないかもしれない。
新庄はただ、自分の作った物を“そんな事”に使ってほしくないと、そう願うばかりである。




