「上手く行けば、美味い水が飲めるぞ」
砂漠に送り込まれた、商会の調査隊第二陣。
前回よりも規模が小さく小回りが利くようになっていたが、その士気はほぼ最低であった。
「生きて戻ることを最優先、とか言われてもなぁ。前回の50人が全滅だって言うのに……」
「やってらんねぇ。帰ったら別の仕事を探そうかな」
「止めておけ。手を回されて、干されるのがオチだぞ」
「わぁーってるよ。それでも愚痴らなきゃやってらんねーんだ」
町がある砂漠の南側、その近くにモンスターは出ない。
町から北の方へ10日ほど先にある山まで行けばモンスターも出るのだが、この辺りは安全なのだ。だからこそ、町があるとも言う。
そんな安全な――そして過酷な――環境の中を、彼らはまっすぐ南に進む。
「方角はこれでいいな?」
「はい。3日は何も無いはずです」
前回の調査隊は全滅したが、その全滅のタイミングと、調査計画から、どの辺りで全滅したかの予測は立てられる。
それを基に、彼らは行動して、最短で新庄たちのオアシスまで辿り着いた。
「これを見て暴走したわけか」
「……これが手に入るなら、入ると思えば暴走もするか」
そうしてオアシスを発見し、そこにほとんど人がおらず、“見た目だけなら”制圧が容易であるという感想を抱く。
実際はそれで全滅した前任者がいるため、見た目とは裏腹に、彼らは恐ろしい罠のようだと考えた。
「俺たちの仕事は――」
「いや。半数はそれでいいが、もう半数で住人に接触しよう。武器を預け、対話を試みるぐらいはしておきたい」
前任者の全滅を理由に、調査隊の副隊長はすぐに帰還をするように指示を出そうとした。
だが、そこで隊長が待ったをかける。
新庄らに接触して、もう少し情報を手に入れておきたいと考えたのだ。また、調査隊の安全も考慮しての行動だ。
帰るだけなら、隊の半分もいれば十分。
残る半数で接触して、水を分けてもらえないかと交渉しに向かう。
水場を見かけて何もせずにすぐに逃げていけば、オアシスの関係者が自分達を敵対者かもしれないと考える。
普通の旅人ならば、オアシスがあれば水の補給を求めるだろうと考えてのことだ。
隊を分けるのも、相手を威圧しないためだと説明すれば、相手も理屈は分かるだろう。
「上手く行けば、美味い水が飲めるぞ」
彼らに支給された水袋は、動物の革でできている。一日も経てば革に付いたものが染みだし、水を不味くする。
綺麗な水は、美味い。
それに釣られた部下を率い、調査隊の隊長は新庄に接触をした。




