「オッサンはアッチに行って!!」
新庄は、自分の運のなさを呪った。
砂漠への転移に合わせて肌の露出が少ない衣装になり顔がほぼ見えないが、おそらくは綺麗系の少女である。
女子中学生というのは、出て行った自分の娘と同じ年代。はっきり言えば、関わりたくない相手だ。
しかし、新庄の事情は相手に関係なく、また、娘に捨てられた件で目の前の少女に八つ当たりするのは筋違いだ。
目の前の少女が信用できるかどうかは分からない。
それでも最低限の礼儀として、挨拶と自己紹介をしてから、今後の交流をどうするか決めることにした。
「ここにいるのだから、お互い、あの異世界転移に巻き込まれたってことで良いよな?
俺は新庄祐。
オアシスはここだけに用意されたのだし、しばらくは同じ場所で暮らすことになるから、よろしく頼む。
それと、お互いにそれぞれで現状を把握してから今後の相談をしたいのだが、構わないだろうか?」
子供が相手とはいえ、あまり子供扱いするのは良くないと判断した新庄。少女と対等な、同僚を相手にするときの軽めの口調で話しかけた。
しかし少女はそんな新庄の考えなど分からず、年上の男を相手に怯えた表情を見せた。
だが、怯えたままでは不味いと考えたのか、表情を取り繕い強気な顔を作ろうとした。
「『加倉井 真姫菜』よ。
アタシはここで一人暮らしするんだから、オッサンはアッチに行って!!」
口が悪いなと、新庄は思った。
小さな猫が大きな犬を相手に威嚇するように、足を震わせ口の端を引きつらせながらの強気発言に嫌な感情は抱かないが、新庄はしばらくは放置で良いかと考えを切り替えた。
「ま、その辺りもあとで話をしよう。俺も状況を把握しているとは言いがたい。今はまともに先のことも決めれないからな」
新庄はそれだけ言うと、加倉井真姫菜と名乗った少女から距離をとった。
相手から突き放されてはいるが、大人として話し合う余地は残している。
新庄はオアシスという水源があるのだから貰った力で自活できるだろうと考えているが、加倉井に同じことができるとは限らないと思っている。
関わりたくなくても自活できない少女を見捨てるほど新庄は冷徹ではないし、寄生されないのが前提になるが、多少の支援をしてもいいと考えていた。
その辺りの現状は、まだ不透明なままだ。
自分はどうする?
加倉井はどうなる?
神様らしき相手から貰ったものは、力と、オアシスと、家と、一月分の食料。
貰っただけでは意味がない。これらを自分の目で確かめて、使えるようにして、はじめて意味がある。
新庄は、まずは家を確認することにした。