「今日ぐらい、キンキンに冷えたエールでもしこたま飲んで寝るか」
九重たちは、新庄が空を飛んで移動しているだろう事を見抜いて、空から見えるメッセージを作った。
たくさんの松明を使って作ったメッセージは、ちゃんと受け取ってもらう事が出来たのを、彼らは確認していた。
「もはや、なんでもアリだな」
「まー、そういう事もできるだろうと思って、こんな事をしたんだけど。本当に空を飛んでるのを見ると、苦笑いしか出て来ないな」
彼らの中には、夜目が利く者も居れば、遠くを見通せる者もいる。
何も知らなければ気が付けない新庄の飛空艇も、いるだろうという前提で監視していれば、意外と分かるものなのだ。
新庄が残していった望遠鏡などもあったので、余計に見付けやすかった。
「オアシスでの暮らし、悪くなかったんだけどな」
「言うなよ。もう終わった事だろうが」
新庄の近くにいると、魔王になるかもしれない。
そんな一時的な恐怖心からオアシスを出て行った彼らだが、時間が経って落ち着くと、その判断が正解だったのかを疑問に思ってしまう。
目の前のリスクに過剰反応したのかもしれないと思うと、便利で快適な生活を捨ててまでここに居るのは正しいのかと、現実逃避してしまう。
「今更だ。どの面下げて、オアシスに帰るっつぅんだよ」
「そーなんだけどさー」
過去の選択が間違いだったかもしれない。
それを言い出しても、選んでしまった道は引き返せない。どんなことをしても、過去は覆せないのだ。
彼らが新庄と合流する事は、普通ならばもうあり得ない。
「でも、新庄さんなら、苦笑いして受け入れてくれそうな気もするじゃないか」
「あー。あの人、お人好しだからな」
普通ではない新庄なら、気にしないかもしれない。
謝れば、頭を下げれば許してくれるかもしれない。
そう考えると、あとは九重らの気持ち1つという見方もできるのだが。
「やっぱ駄目だ。そんな情けない真似は出来ん」
「えー」
その九重らにもプライドがあり、新庄に謝罪する事はしても良かったが、オアシスの世話になるのは駄目だという。
頭を下げる事は恥ではないが、自分たちの利益の為に他人をただ利用する事は認められなかった。
恰好付け、無駄なプライドと笑うなら笑えばいい。
それでも、そんなプライドを守るために越えてはならない線引きをせねば、どこまでも利益を求めて外道な振る舞いをする悪党になりかねない。
新庄が許そうが、自分で自分が許せなくなってしまう。
「考え過ぎだと思う」
「ぬかせ。だったら、お前一人でオアシスに行っても良いんだぞ」
「そうじゃなくてさー。それが出来ないのはそっちだって知ってるくせにー」
それは合理的な判断ではなく、感情的な行動だったが、九重らはだからこそ、胸を張って生きる事ができた。
恥入る事はあるが、間違った選択もしたが、それでも我利我利の亡者や畜生ではなく人として生きている。
お天道様の下を歩いているのだ。
「今日ぐらい、キンキンに冷えたエールでもしこたま飲んで寝るか」
「いーねー。じゃー、松明は片づけてきまーす!」
彼らは彼らの人生がある。
新庄と道を違えても、精一杯生きているのだ。
そんな彼らは、今日という一日を笑顔で終え、翌朝を二日酔いで死ぬほど酷い顔で迎えるのだった。




