「こちらの被害と捕虜はゼロ。生き残りがいるかもしれないけど、それぐらいは許容範囲。完勝だな」
「すみませんが、詳しく話を聞きたいです」
貴生川がいなくなった後。
会話の意味が全く理解できなかった領主から、新庄に呼び出しがかかった。
新庄も言われた事を理解しているとは言い難いのだが、一番情報を持っていると言うことで、自身の頭の中を整理する為にも領主に事情を説明をする事にした。
「そんな危険なモンスターがいたのか……」
「ドラゴンの王の話では、もういないらしいですが」
「それが本当かどうか、確かめる手段が無いというのは歯痒いものだな」
「ええ。まったくです」
この話で問題なのは、転移者の負の思念体がいたという部分ではなく、それが本当に倒されたのか、という点だ。
貴生川への信用が微妙な状態なので、不安が拭えないのである。何の証明もしてもらえなかったので、彼らの胸のうちは不安しかなかった。
「考えても仕方がないんですけどね」
「ああ。その通りだな」
ただ、思念体というものがどういった存在だったかとか、気になった所で答えなど無く、誰も教えてくれない。
どうすれば倒せるかも分からない。
ここまでないない尽くしだと開き直る事しかできず、頭の片隅に追いやるだけだ。
いくら知りたい事でも、知る事ができるとは限らないのである。
そこで、二人は意識を切り替えるために戦後処理の話を持ち出した。
「こちらの被害と捕虜はゼロ。生き残りがいるかもしれないけど、それぐらいは許容範囲。完勝だな」
「サルベージはこれから始めるけど、期待していいよ。船は何隻か修復の材料として潰すけど、それでも半分は直せるし、積んであった荷物はかなりの物だろうからね。
分配は事前の取り決め通りでいいんだよね?」
「ああ。勿論だとも」
戦果については文句なし。
だから主に、戦利品の分配についての話し合いだ。
新庄は善意の協力者だが、無償の奉仕者ではない。
それでも構わないと新庄は考えていたが、領主がそれを拒否していた。
労働に正当な報酬を支払わないと、組織が腐るからだ。
一度でもそういった前例を作ると、後々まで悪影響を及ぼす。高めの報酬を渡して新庄の心証を良くするとともに、身内には今回の助力を特別なものと印象付けた方が、後が楽になる。
一時的な利益のために、その後ずっと不利益を被ると領主は考え、報酬の出し惜しみは愚策と判断した。
そこで、町の取り分は「中型船一隻」と「大砲とその弾薬」、「食料すべて」となっている。
残りは全て新庄のものである。
大型船三隻と、中型船十四隻(ただし三隻ほど修理の材料として消費予定)、武器防具に矢玉などの消耗品。金銀財宝に無事な薬品類がもしもあったら、それも新庄に権利がある。
それだけでなく、ロケット砲とロケット弾も新庄が回収していく。
新庄がいないと補給できないロケット砲にはそこまで価値がなく、無くなっても構わないというのが領主や家臣の共通した意見だった。
だから、新庄に引き渡しても惜しくない。自分達もいずれは作れるようになるだろうが、それまで砲台に無駄な場所を取らせるのを嫌った形である。
ここまですると新庄の取り分が多いように見えるが、町としては防衛施設をいくつも作ってもらったし、利益はちゃんと確保している。
損をしていないのだから、戦利品を多めに渡した所で懐は痛まない。
中にはもっと取り分が欲しいと考えている者もいたが、そこは領主が睨みを利かせている。
軍を掌握している領主の権限が強いので、それだけで反対意見は表に出てこなくなる。
今回の勝利で、新庄に本気の文句を言う輩は出なくなっていた。
「では、回収は頼んだよ」
「ああ、頼まれたよ」
新庄が回収物を懐に入れた場合、それは誰にも分からない。
しかし、領主はそんな可能性を一切気にした様子を見せずに、新庄に依頼する。
信用とはこういった場面ではっきりする。
それが貴生川と新庄の差である。




