「こればかりは、ね。手持ちの素材の問題と、再現性の話になるから」
小人になる魔法で問題を解決して、飛空挺に乗れるようになった加倉井。
二人は遠出と戦争の準備をすると、すぐにオアシスから飛び立った。
飛び立つ前、新庄はオズワルドにも飛空艇の存在を明かし、秘密の共有を依頼する。
「二機目を生産することが出来ない代物なので。
残念ながら、あまり公にするつもりが無いんですよね」
「そうでしょうな。知られれば有象無象は何も考えずにそれを求め、オアシスに押し掛けてくるでしょうから。
その存在を隠すのには、私も協力しましょう」
今回の件で、飛空艇の存在がバレる可能性が出てくる。
その対策は、秘密を守るための協力者を作る事だ。
秘密の共有が自分たちの利益になると思えるような何かを用意して、有力者を取り込む事が大事である。
無作為に情報が広がらないように、自分の制御可能な範囲に情報を広めれば、多少の事はなんとかなるのだ。
少しぐらいの情報が拡散するのを諦めれば、拡散された情報を歪めるなどして、身を守れる。
自分が墓まで秘密を抱えないのなら、それがベストではなくとも、ベターな選択と言えるだろう。
「にゃ、にゃあーーーーっ!!」
飛空挺で初めての空を経験した加倉井は、あまりの恐ろしさに悲鳴をあげた。
体が小さくなっているのも作用して、体感速度が何倍にも引き上げられたのが原因だ。
加倉井は日本で飛行機に乗った事が無かったので、空を飛び始める時の、独特な浮遊感に慣れていなかったのもある。
ただ、それよりも、時速数百kmという高速飛行のインパクトが全て持っていく。
五分の一サイズになった為に五倍の速度を感じた加倉井は、ギフト能力でGに耐えられはしたものの、どうしても恐怖心が先に来る。
キャノピーがあるのだし、風を感じないのだから速度が安定すればあまり気にならなくなるのだが、それまでは大変であった。
加倉井を膝の上に乗せていた新庄は、操縦のために手が離せなかった事を、耳栓を用意しなかった不手際を後悔するぐらい、加倉井の叫び声に耳を痛めるのであった。
食事やトイレ、体力回復のために何度か休憩を挟みつつ、二日かけて新庄たちは町に辿り着いた。
と言っても、町に直接降りれば騒ぎになるので、少し離れた所から歩く事になっているのだが。
空という移動手段の速さを体感した加倉井は、まだ帰りがあることに落ち込みつつも、その利便性を実感した。
「私も飛空艇が欲しいのですけど、私では持ち運べないし、そもそも作れないんじゃ、しょうがないですね」
「こればかりは、ね。手持ちの素材の問題と、再現性の話になるから」
加倉井はわきまえているので、「これ、ちょうだい」などとは言わない。
欲しい事を認めつつも、諦めていますよとアピールするだけだ。
小人になって飛空艇に乗るのは怖いし、体に負担がかかる。
それでも新庄と一緒に動きたければ、飛空艇という選択肢を外すのが難しい。飛空艇の凄さは体感したばかりだ。
だったら、もう一機の飛空艇があれば、小人にならなくても済むので、問題が解決するのだ。
加倉井が飛空艇を欲しいと思うのは、それが理由である。
新庄の隣にいたいという、それだけなのだ。
新庄は町までの道中、雑談しながらも、加倉井の言葉を反芻していた。




