「そうだ、魔王化を解除しておこう」
回復魔法の専門家は、遠方の九重達を頼らなくても、近くにいる荻達の中にだっている。
メンバー間で役割分担をすれば、当たり前のように求められる役割なのだ。むしろパーティを組んでいれば、いない方がおかしい。
今の田中を運ぶのは難しい。
新庄は手紙をだして、オアシスに来てもらう事にした。
「そうだ、魔王化を解除しておこう」
伝書鳩を使い、最速で回復役を呼んでも、すぐに来れる訳ではない。
移動に時間がかかるので、田中を治療してもらうまで、三日は時間がある。
そこで新庄は、治療の前に田中を人間に戻す事にした。
「あぁ、そういえばそんな事を言ってましたね」
金のリンゴの実験は、新庄がドラゴンの森に来た時に田中も話を聞いている。
その時の田中は操られている最中だったが、記憶を失ったわけではないのだ。ちゃんと覚えている。
そこで副作用の話も聞いていたのだが、田中はそれを思い出せず、新庄も説明をしなかった。
もしかしたら若返るかも知れず、下手をすれば性転換。
医療に携わる者なら説明をするのだろうが、新庄は田中を人間に戻す事を優先して、勝手に話を進める。
魔王を人間に戻すためなら多少の非道を押し通しても構わないと、新庄は考えている。
後で恨まれようと、構わない。
説明したところで田中は受け入れただろうが、それは言葉にしなければ分からない話である。
この件に関して、新庄は独善的に判断していた。
「真姫菜。俺が魔石を抜き取ったら回復魔法を使ってくれ。リンゴを口にいれるのは、こちらでやる」
「分かりました」
田中の魔石は心臓付近にある。
胸に穴を開けるのだから激痛を与えてしまうので、田中は薬で眠らされた。
金のリンゴは、シャーベットにして新庄の横に置いてある。予備も用意して万全の体制だ。
上半身をはだけた田中の体をアルコール消毒して、煮沸殺菌したナイフを取り出す。
「いくよ」
新庄はナイフを振り下ろし、魔石の近くまで突き刺した。
そうしてナイフで魔石の感触を確かめると、ナイフを引き抜いて左手の指を突っ込み、魔石を取り出した。
「魔石、摘出」
「回復魔法、入ります」
加倉井は新庄が魔石を取り出したのを確認すると、回復魔法で田中を癒す。
傷は一瞬で塞がれ、何事もなかったかの様に消えてなくなった。
しかし吹き出た血は残っているので、加倉井は清潔な布でそれを拭き取る。
「シャーベットを食べさせる」
次に新庄は魔石を横に置くと、血で汚れた指先を洗い、田中の口を開けて金のリンゴのシャーベットを流し込んだ。
田中はむせるが、無理やり飲み込ませる。
シャーベットをリンゴ半分ほど流し込むと、田中の体が発光して、モンスターとしての反応がなくなる。
田中は若返りも性転換もせず人間に戻っていた。
副作用は無かった。
無かったのだが。
「良かった。魔王を人間に戻すだけなら……え?」
「腕とか、元に戻ってるのですよ!?」
金のリンゴの回復効果は、変な風にくっついていた骨を正常な状態に戻していた。
荻チームから回復役を呼ばなくても良くなっていたのである。
「これは……試してなかったからなぁ」
「謝らないと、ですね」
この結果には、新庄と加倉井も苦笑するしかない。
悪い結果ではないのだが、荻たちに無駄な労力を使わせてしまったのだ。ここは報酬を追加して頭を下げるしかない。
こうして、“田中は”無事に復帰したのであった。




