「あ、その肉団子は真姫奈の分だから。遠慮せず食べていいよ」
新庄は貴生川から得た情報を頭でまとめるが、田中の件で頭痛がするほど面倒な状況になった事もあり、半ば考える事を放棄していた。
「そもそも、あの田中さんが本当にドラゴンを駒扱いして貴生川さんに挑んだ?
何の冗談だよ……」
新庄は、貴生川が嘘を言っているとは思っていない。
貴生川の視点で、間違いなく本当の事を喋っていたと考えている。
貴生川のようなタイプは、嘘はあまり言わない。
隠し事をするために誤魔化す事はあるが、「田中が襲ってきた。返り討ちにしたら魔王になって逃げだした」という嘘は言わないと考えている。
また、それが田中であると確信している様子から、田中本人がそういう事をしたのだろうと判断できるのだが。
「何が、どうなって貴生川さんを襲う事になるんだ?
人質を取られたとか、操られた、か? いや、それでもギフト能力が変化する理由にはならないよな。寄生生物に体を乗っ取られた、それで乗っ取った寄生生物が持っていたのがドラゴンを支配する能力とか?
あぁ、もー! 情報が少なすぎる!!」
新庄はいくら考えても出ない答えに頭を抱え、思わず叫んでしまう。
状況はかなり悪い方に動いているし、 その背景を知るにも遠方の出来事という事と、発生した魔王化の基礎情報が足りていないために判断ができない。
貴生川が幾許かの情報を寄こしてくれたが、新庄の目にはまだ隠し事があるように見え、もっと情報を寄こせと言いたいのを必死に我慢する羽目になっていた。
新庄のストレスはかなり溜まってしまう。
「ダメだなー。全然ダメだ。
こういう時は美味い物でも食って、気力を回復させないと」
新庄は魚の鍋料理を作りながら、仮定でいくつかのパターンを設定し、それぞれの対応を決めていく。
また、今回得た情報は転移者同士で共有する必要があると判断し、緊急で九重たちにも伝えるように手紙を手配する。
特に田中の件は、新庄よりも付き合いの長い九重らの方がより良い判断が出来るだろうと期待しての事だ。
大きな問題は自分一人で抱え込んでも何もできない。
とにかく仲間を増やし、対応可能な体制を整えるために、新庄は色々と手を回し始めた。
「それで、新庄さんはどうするつもりですか?」
「田中さんが本当にそういう事をしたのであれば、処刑するしかないんだよな……」
もちろん、新庄は加倉井とも話をしている。
貴生川が来た時はちょうど仕事で外に出ていたが、戻って来てからすぐに田中の事を相談している。
「厳しいけど、それぐらいの事をしちゃったんですよねぇ……」
「相手にかなりの死者が出ているし、生き残ったドラゴンごと連れて行ったからね。甘く見積もっても死刑相当になるんだよな」
ただ、加倉井も頼られたからと言って名案がすぐに思い浮かぶわけでもない。
どちらかと言えば愚痴を聞くのに近かった。
加倉井でなくとも、それぐらいしかできないだろうが。
「あ。お野菜ばかりじゃダメですよ。お肉もどうぞ」
「あ、その肉団子は真姫奈の分だから。遠慮せず食べていいよ」
ただ愚痴を聞く、それだけでも新庄は助かっている。
沈みがちな気分が上向くし、一人でないと実感する事で精神が安定し、思考が沼にはまらない。
今の新庄にとって、加倉井は重要なパートナーであった。




