「この手の巨大建築は、できなくはないけど、やってもなぁ。意味がないんだが」
バベルの塔。
旧約聖書に出てくる、煉瓦とアスファルトで出来た、天に届く高さの塔だ。
完成前に壊された事から、実現不可能の代名詞として使われる事もある。
似たような話が異世界にある事に新庄も驚かされたが、よく考えると不思議な話ではない。
この世界には何度か転移者が訪れているので、そのうちの誰かが教えていても不思議はないのだ。
バベルの塔の話がいつ頃聖書に追加されたかは解らないが、千年ぐらい前なら普通に記載されていただろう。こちらの世界に伝わっていてもおかしくないのである。
「異世界でもこういった話が教訓として語られているんだな。
でも、それで言葉が通じなくなったとか、そういった部分はオミットされているのか」
シドニーに言われ中身を確認した新庄は、記憶の中にある聖書と比較していく。
新庄は聖書に詳しくないが、天から降る硫黄の雨など、有名なエピソードならいくつか知っている。付箋を便りに神罰関連のページを読んでみるが、見当たらない。
「まぁ、後でしっかり確認すればいいか」
今はシドニーがいるので、本の内容を精査する時間をとれない。この場ではシドニーと話し合う方が重要だと気持ちを切り替えた。
「新庄は神罰の条件を探していたようだが、宗教国家からは特に回答が無く、困っていたようだからね。どうせだからと、捕まえた連中から聞いた話をまとめておいた。
今後も連中から神罰について確認してみるので、期待していてほしい」
シドニーは以前依頼された事を覚えていて、これを機に、神罰の情報をまとめている。
神罰の実在は疑っていない。
だから神罰の正しい条件が分かれば、その分の心配が減る。
信仰する気は無くとも、神と敵対したい訳でもないから、無謀な挑戦はしない予定だ。
同時に、塔の神罰を最初に見せる事で新庄に「この国でこういった真似はしないでくれ」と無言で圧をかけている。
巨大な塔の建築など、新庄ならば不可能とは思えず、やりかねなかった。新庄は生産系のギフト能力を持っていて、理由さえあればやるという確信があった。
やるにしても、国内は避けてほしいと思うのが人情である。
「この手の巨大建築は、できなくはないけど、やってもなぁ。意味がないんだが」
やってほしいと言われれば、やぶさかでもない。
ただ、自発的にこれをする理由が新庄にはない。
ゲームでないのだから空中にブロックを配置できないし、地震があれば一発で崩れる危険性がある。
それに上の階に水を引くのも面倒で、手間のわりにメリットが見当たらない。
4~5階ならばともかく、それ以上の建築物だと普段使いするには利便性が悪いのである。
だが、これで神を呼び出せるとすれば、どうだろう?
作る気は無いと言いつつも、新庄は塔の建築計画を頭の中に描くのだった。




