「それでも懲りなかったようだ」
「新庄。面倒な客が来たぞ。隠してはいるが、異端審問官だろうよ。
暗殺するよりも正面から敵対すると決めたらしいな」
「暗殺者を送る前に来れば良いのにね。
いや。先に敵対した場合、刺客を送って殺したら疑われるし、それを嫌がったのかな。
どちらにしても、ろくでもないのは間違いないけど」
新庄が本を出版し、異世界の神様を讃える祭りを行ってから二月後。
旧連合の宗教国家から、新庄と話がしたいと、町に人が送り込まれてきた。
シドニーは彼らを異端審問官、宗教的な敵の見定めを行う者達だと推測した。
砂漠の国と宗教国家は、敵対かその一歩手前の間柄である。
正式な国家の使者なので相応の扱いはするが、シドニーとしては殺しても問題ない相手でしかない。
わざわざ新庄に会わせてやる義理は無く、新庄に情報を流すだけにしておいた。
会わせるにしても、先触れを行い、相手の予定を伺い、予約をとり、可能であれば事前に軽く打ち合わせておくのが作法である。
先触れの一つも出さない連中など、待たせるだけ待たせて会わないと言う事も珍しくない。
相手が自分を軽く扱われているのなら、自分も相手を軽く扱っていいのだ。
砂漠の国における新庄の立場は「国王の友人」なので、新庄を見下すならばシドニーたちも見下されていると見て良いので、シドニーには反撃する正当な理由があった。
シドニーが使者を叩き出さないのは、相手の行動を制限するのと、新庄の判断を優先するからだ。
シドニーが客として扱うなら、使者はシドニーの意向を無視できなくなる。新庄の所へ勝手に行けなくなるのだ。
また、最終的な判断をするべき立場にあるのは自分ではなく新庄なので、ぶっ飛ばしてやりたいと思っていても、自制していた。
「俺には会う理由は無いんだよね。何の話をするかは聞いているか?」
「いいや。新庄本人に話すからと、教えてもくれなかったな。書状一つ寄越しもしない。
あれだな。格下の相手が自分達に従うのは当然だから、そんな必要も無いと思っているんじゃないか?」
「……国の使者なんだよな? いや、そこまでバカだと、偽物の可能性もありそうだ」
宗教国家の使者は、シドニーに新庄へ取り次げと言うだけで、礼儀や節度を持ち合わせていなかった。だからこそ、余計に新庄に会わせたいと思っていない。
なのに、使者たちはシドニーが新庄への取り次ぎをすると信じて疑わない。
その態度は演技であれば凄いのだが、シドニーがいくら考えても、そうすべき理由は思い付かなかった。
「もう、切り捨てていいんじゃないか?
少なくとも、俺は会わない。そう大した相手でもないし」
「そうか、うん。
ならば後は私の好きにやって良いよな? 良いよな?」
シドニーの話を聞いた新庄は、相手が礼を持たないなら、会わないと決めた。
その処遇はシドニーに一任する。
するとシドニーは、楽しそうに笑い、使者たちをどうするか考える。
横柄なお客様にストレスが溜まっていたようで、すぐに何をするか決められないようだった。
こうして宗教国家の最初の使者は、シドニーにより処分された。
国際的な問題になりかねない話だが、面子の問題でもある。国には事後報告になるが、国力の差もあり、今回は問題ないと判断された。
抗議をされたところで気にしない。
戦争になっても負けないし、喧嘩を売ってきたのは相手だと言い切れたからだ。
「それでも懲りなかったようだ」
処分と言っても、殺しはしていない。
ボコボコにして追い出しただけだ。
異端審問官かもしれないとはいえ、神を信じないシドニーが躊躇する理由にはならなかったのである。
これで相手から抗議の文書でも届けば新庄への仲介も無くなると、そうシドニーは考えていたのだが、相手はなかなかしつこかったらしい。
軽めの謝罪と、多少マシな人選をして、新しい使者を立ててきた。
「自分達が譲歩した、そんな形を作りたかっただけか?」
シドニーは相手の考えを予測するが、大した相手でもないので、途中で考えるのを止めた。
今度は表向きではあったが用件を伝えてきたので、新庄も会うだろうと思いつつ、オアシスに連絡を取るのだった。




