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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
砂漠の国の、神殺し
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「神を殺さんとする者が、神に祈るか」

 新庄はドラゴンを直接オアシスに招くことはせず、砂漠の国から離れた所で彼らを迎え入れた。

 そこは砂漠の国から船で10日ほど離れた所にある旧連合の一つ、海の向こうの国だ。



「貴様が新庄か。このような場所を選んだ理由を教えてもらおう」


 現れたドラゴンは、もちろん貴生川ではない。

 そこそこ年のいった、大きな体躯の、空を飛べるドラゴンである。


 そのドラゴンは待っていた新庄を不機嫌そうに睨み付けると、ドラゴンと敵対的な人間国家を待ち合わせ場所にした理由を聞いてきた。


「ここで姿を消す分には、騒ぎが小さくなるからだね。

 ドラゴン関連で迷惑をかけても心が痛まないっていう理由もあるかな」


 ドラゴンが不機嫌そうであれば、対する人間は並の精神であれば委縮してしまうものだ。

 しかし新庄は飄々とした、人好きのする食えない笑顔を全く動かさずに返事をした。

 強そうなドラゴンが相手でも、だからどうしたとばかりの態度である。



 人間ぐらい、脅し付ければ簡単に慌てふためくだろうと考えていたドラゴンは、面白くなさそうな顔で鼻を鳴らした。


「姿を消す、と言ったな。どうするつもりだ?」

これ(・・)を使うよ。あと、俺も運んでもらうから、そのつもりで頼むよ」


 新庄はドラゴンの前で、一本のポーションを取り出した。

 これは『透明化のポーション』で、その名の通り、姿を消すことができるアイテムだ。


 ゲーム的な効果を言えば、敵に発見されなくなる効果があり、戦闘回避に使う品である。

 悪用しようと思えばいくらでも使い方のあるポーションだが、新庄はそういった事をするつもりが無いのでこれまで出番が無かったアイテムでもある。


 もしも新庄が若ければ悪用の誘惑に耐えられなかったかもしれないが、40歳を過ぎている新庄はどうにか理性で悪用をしないでいる。

 作ったのもこれが初めてで、こんな事が無ければまったく作らずに終わっただろう。



 そのポーションはともかく、ドラゴンは新庄の「運んでもらう」発言に嫌そうな顔をした。


「人間を背に乗せるつもりはないぞ。王から関係を持つように言われているが、そこまで許すほどの信頼が、今この場には無いからな」


 そしてドラゴンは、新庄が背に乗ることを明確に拒否してみせた。

 それも当たり前の話で、そこまで知らない相手、ましてや新庄のような“ドラゴンを殺せるギフト能力者”を背に乗せた場合、自身の命が危うくなるのだ。

 ドラゴンが新庄を背に乗せないというのは、自然な話である。


 そしてドラゴンは言わなかったが、誰かを背に乗せて飛ぶことは非常に面倒くさく、手間がかかるのでやりたくないという事情もあった。


 例えるなら、車の運転で、後部に自転車を乗せて走るようなものだ。

 専用の固定金具で自転車を動かないようにしても、普段ない物があれば感覚が大いに狂う。

 慣れてしまえば問題無いだろうが、初回はずいぶん神経をすり減らすだろう。


 もしも人間が空から地に落ちれば、その人間は間違いなく死ぬ。

 “人を背中に乗せる”などという事をした事が無いドラゴンは、これから交流を持つ相手を自分のミスで殺す失態などしたくなかったのである。



「ああ。足にロープで括りつけてもらうのは、可能かな? 両手が動けばいいんだけど。

 ほら、一緒にいないと、ポーションの効果が切れた時の対応ができなくなるから。そうならないようにする為にも、一緒にいないと拙いんだよ」

「……それぐらいであれば、構わん」


 新庄としても、背中に乗せてもらうつもりは無かった。

 馬の背に乗るのならともかく、ドラゴンの背のどこに乗ればいいというのか。

 騎乗用の動物ではないドラゴンに乗るという発想は、新庄もしなかった。


 だからロープで足に体を固定し、空へと飛び立つ事にした。

 先にトイレを済ませ、ポーションの準備をする。

 準備ができたら体を固定し、後はドラゴンが飛び立つのを待つばかりである。



「墜落制止用器具、ちゃんと機能しますように」

「何か言ったか?」

「このロープが切れない事を神様に祈っただけだよ」

「神を殺さんとする者が、神に祈るか」

「生まれた国の神様だからノーカンだよ」


 新庄が透明化のポーションを使ったため、お互い姿が見えなくなっている。

 目視で自分の姿すら見れなくなった新庄だが、準備は万端なので、問題は無い。


 新庄とドラゴンは、軽口をたたき合ってから空へと向かうのだった。

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