「つまり、やるなら強行するしかない上に、何をやってもドラゴンを狙う勢力が存在するわけだ。しかも、国の上層部に」
ドラゴンを人の領域に迎え入れる。
御手洗のように人の姿になるならともかく、そのままではどう考えても人の目を引く、隠しようの無い話である。
安易に行えば周辺各国から非難轟々、下手をすればドラゴン目当ての軍の出動すらあり得る。いや、ドラゴンが常駐するなら、確実にそうなるだろう。
新庄は根回しによりそれを回避しようかと考えていたが、以前に出ていた話、ドラゴン素材を用いた不老不死の秘薬の件があったため、その計画を頓挫させるしかなかった。
実際に出来上がるのが一時的な老化防止の薬で、しばらく歳をとらなくなるだけであっても、金を積んで手に入るならいくらでも積む人間は数多い。
残念ながら、彼らを止める手段は無かったのである。
「つまり、やるなら強行するしかない上に、何をやってもドラゴンを狙う勢力が存在するわけだ。しかも、国の上層部に」
守るのが大変だと、ため息を吐きたくなる新庄。
ドラゴンは単体としては強いので、守る必要が無いようにも見えるが、そこは招く側としての体面である。
家に招き入れた客が強盗に襲われる。
人聞きが悪いで済む話ではなく、悪意を持って見れば、新庄がドラゴンを安全に襲うために誘い込んだと言われかねない。
さすがに行きと帰りは自分で自分の身を守ってくれと言うが、オアシスに居る時と、その周辺ぐらいは新庄が守らねばならないのである。
……人間の感覚で考えるのであれば。
「個人単位の友誼と、国家単位の国交では話が違うのは当たり前だけど。
本当に面倒くさいな!」
新庄としては、ドラゴンとの交流はある程度オープンにしていきたかった。
秘密主義を発揮して内々に話を進めた場合、なにか起きた時に外部の協力を得られない。
いざという時に備えた保険は、自分達だけで用意できない。
身を守るためにも、話し合う姿が外から見える、そんな交流をしたかったのである。
だからこそ根回しをしたかったのだが、欲の皮の突っ張った商人や、長生きに財産を惜しまない王侯貴族などは、新庄に配慮などしない。
表立ってはにこやかに応対するものの、裏ではドラゴンを殺して欲を満たそうと画策する。
新庄は手持ちのドラゴン素材を使っていくつか試してみたが、彼らがドラゴンとの共存に同意するようには見えなかった。
社会全体で見れば新庄の行動はより大きな利益になるのだが、どうしても社会を支配する個人の利益が優先される。
困った事に、その解決方法は現代社会にも存在しなかったのである。
仕方がないので、ごく一部の信頼できる人間にのみ、新庄は話を通した。
そしてドラゴンには地下に隠れてもらうようにして、あとは多少の誤魔化しで押し切る予定を組んだ。
雑ではあるが、それぐらいしかできなかった。




