「砂漠でお願いします」
新庄が今後の方針を決め、しばらくすると、再び声が聞こえた。
「ここに居るみなさんは異世界への転移を受け入れてくれたのですね。ありがとうございます。
では、モンスターの脅威に対抗し得る能力を与えます。どのような能力が良いか、教えてください」
新庄は少し考えたが、「マジッククラフト」という、クラフト系ゲームの能力を貰うことにした。
ゲームの内容は、魔法使いがいろいろな物を作り、装備を整えてモンスターと戦うというものだ。
基本は生産系の能力になるが、素材集めに多くのモンスターと戦うゲームなので戦闘能力が期待できるし、生産能力があれば不自由な暮らしをせずに済むだろう。
何より、物を作るだけでも他の誰かの戦闘能力の向上が見込めるので、モンスターの脅威に対抗するという考えに合う。
この能力について説明すると、いくつかの能力・アイテムの効果が無くなり、ゲームのような環境は存在しなくなる替わりに、独自要素を提案される。
それらはゲームの仕様となる空中建築のような物理法則を無視したものなどで、おおよそ理解できることばかりであった。
その提案内容を確認した新庄は、特に問題無いと、それを受け入れることにする。
「では、新庄にはクラフトのギフトを与えます。
ギフトの使い方ですが、貴方達の頭に直接教えました。これで使い方は分かるはずです。
最後に、貴方の望む転移先と立場を選んでください」
「立場?」
最後は、異世界への転移先の指定と、それに伴う地位の獲得についてであった。
例えば、どこかの宗教施設に転移した場合、その宗教関係者から庇護を受けることができる。そして世界を救うための勇者と言われるだろう。
逆に、人里からそこそこ離れただけの場所に転移し、一般人として世界を旅する事もできる。ゲームなどにあるような、冒険者を目指すのも良いだろう。
中には「魔獣の森」という、人里から遠く離れた場所も選べる。そういった場所を選べば、異世界で人と交流することは難しくなるが、逆に煩わしい世俗を捨てた世捨て人として、人と一切関わらず孤独に生きたいというのであれば、それも選択肢に入るだろうか。
新庄は「人里離れた場所」に心惹かれたが、完全に関係を遮断するのは自分のクラフト能力と相性が悪いので、別の選択をする。
人里からわりと離れた場所で、余り干渉されなさそうな所。
他の転移者がまず選ばない――
「砂漠でお願いします」
砂漠のど真ん中を選んだ。
転移の特典として、一ヶ月は絶対に枯れないオアシスと一軒家などが用意されるという。
それ以降は、新庄次第である。
何もしなければ、オアシスはいずれ砂に飲み込まれる。
そういう意味だが、クラフト能力であればオアシスの保護も容易であろうと、新庄は判断した。
新庄は、人がいない場所を選んだ。
そして、他の転移者が来ないだろう選択をした。
それは同郷の人間と関わり合いになりたくなかったからである。
味方が多ければ選択肢を増やすが、同時にできなくなることも増える。
そして意見の合わない多くの人間と組んで、なおかつ自分の味方が少なければ立場が低くなり、無駄にストレスを溜める事になるだろう。
ならば、異世界の人間を相手にする事だけを考えて、そこで人の縁を結んだ方がマシである。
プライバシー保護の観点から他の転移者の動向は教えてもらえなかったが、砂漠であればだれも来ないだろう。
新庄はそのように考えていたが。
「ほえ? アタシ以外にこんなトコを選んだ人がいるの!?」
何故かピンポイントに、同じ場所を選んだ転移者が一人。
新庄の異世界生活は、15歳の女子中学生と始まるのだった。