「どうだろうな。誰がやったか分かればまだ判断材料にもなるんだが」
新庄たちは話し合いを終えると、御手洗素材を回収し、氷の蔦の撤去を行った。
この氷の蔦だが、事前に新庄が打ち込んだロケット弾の中にも少量だがエンチャント肥料を混ぜ込んであったので、ここまでしぶとく繁殖したのだ。
主体はあくまで土であり、土ごと回収していけば、3日ほどで森から蔦は消え去った。
「なるほど。土を魔化させて植物を変化させていたのか。
蔦ばかりに目がいけば、駆除しきれないのも頷けるな」
この作業に対し、貴生川から派遣された龍人の監視が付いていた。
名目上は手伝いなのだが、寒いからかあまり役に立たない。
お喋りに付き合ってくれるというよりは情報を引き出そうとする姿勢を隠しもしないので、本当にただの監視である。
新庄はこれで同じ手段が使えなくなると嫌な顔をしたが、環境破壊弾は何度も使える手段ではないので、もういいかと開き直っている。
知られてしまった手札は場のコントロール、相手への脅しに使い、本当の切り札を有効に使うため布石とすればいい。
そう思う事で心中の苛立ちを押さえつけた。
「貰う物は貰ったし、やるべき事はやった。さっさと撤収しよう」
「そうか? そこまで急ぐ事も無いだろう。もう少しだけ、ここに居ても良いと思うが」
氷の蔦を回収し終えると、新庄はドラゴンの森から撤収しようと、九重に話を持ち掛けた。
だが、九重は急がなくても良いのではないかと、新庄の意見に反対した。
「どうした? 何かあったのか?」
「いや、なに。ここいらの珍しいモンスターを少し多めに狩っておいてな、帰ったらそれを売り捌いて今後の軍資金にしようかと思うんだ」
「……貰ったドラゴン素材もあるんだぞ。モンスター素材関連の市場が混乱するはずだから、あまり金にはならない気もするが?」
「そこはもう、腐らない素材を中心に集めて、売るのは出し渋って長期の収入源にだな」
九重は、金銭を理由に滞在の引き延ばしを主張した。
それ自体は変な話ではないが、状況を考えると、おかしなことを言っているのは明白だ。
「あのドラゴンどもは信用できない。それで一度話を付けたよな。何があって方針を変えた?」
「そう、だったか? うん? おかしいな。
ああ、そうだ。確かに、あのドラゴンは信用できん。この場に長く留まるのは得策ではないな。
なのになぜ、私はこの場で狩りをしようなどと、悠長な事を言いだした?」
新庄は、今代のドラゴンの王が何か隠しており、信用できないという認識を九重と共有していた。
なのに、九重はこの場に留まろうとした。
何かがおかしいと、問われた九重も気が付く。
「ドラゴン側の陰謀だと思うか?」
「いや。さすがにそれでは杜撰すぎる。私は他の、第三勢力の仕業じゃないかと思う」
「奇遇だな。俺もそう思う」
そのおかしさの原因。
それが何かは分からないが、おそらく誰かの意図によるものだと新庄たちは考えている。
ドラゴン側が仕掛けたにしては中途半端だし、どこか意図的に作為を感じ取れるような干渉を仕掛けられていたからだ。
バレる事が前提の、警戒を促すような思考誘導だったのだ。
「ドラゴン側が、この先に何か仕掛けて来るとか。それに警戒しろって話かね?」
「どうだろうな。誰がやったか分かればまだ判断材料にもなるんだが」
推定だが、この思考誘導はドラゴンによるものではない。
誰に仕掛けられたか、いつ仕掛けられたかも分からずに、新庄たちは答えの出ない問題に頭を悩ませるのだった。




