「ちっ、その可能性を忘れてた。ファンタジーなら、魅了で行動を操るとか鉄板じゃねーか」
「終わってみれば、彼らは素直に出ていったよ。
憑き物が落ちたって言うのかね。人が変わったと言っていいほどさ」
「あいつらだって、前は真面だったんだよ。隣国から逃げてる辺りからピリピリしだして、 おかしくなったんだ」
アンチを追い出してから数日後、九重たちが戻ってきた。
彼らは遠征中に仲間が追い出された事を知ると、一様に納得の表情を見せた。
狂いつつあったアンチ新庄一派は、彼らの目から見ても、もう駄目だったようだ。
「俺たちにできたのは、あいつらを日常に戻してやる事ぐらいだったけど、それも意味が無かったな。結局、戻って来れずに馬鹿をやらかした。
罠を仕掛けておいてなんだが、失敗してほしかったって、そう思うよ」
付き合いが長かった九重の中には、追放が割りきれない部分がある。
新庄もそれは分かるのだが、部外者が口を挟むべきではないと、相づちを打つだけの聞き役に徹する。
こういう時は、同意や理解者が欲しいのではなく、ただ胸に溜まったものを吐き出したいだけなのだから。
二人は酒を飲んで憂いを払い、一時の心の平穏を求めるのだった。
一方、追い出された者たちだが。
「なぁ。なんで俺らはあんな事をしたんだろうな?」
「分からん。ただ、あの時はそれしかないって言うか、そうしなきゃならん感じがしてた気がする」
「精神操作、かもな」
「ちっ、その可能性を忘れてた。ファンタジーなら、魅了で行動を操るとか鉄板じゃねーか」
彼らが大人しく出ていったのは、文字通り、憑き物が落ちたからだ。
彼らの中には、新庄への理不尽な嫌悪は無くなり、愚行への後悔だけが残っている。
冷静に考えれば自分達の行動に筋が通っていないと分かるだけに、悔やんでも悔やみきれない。
どうすれば良かった、どうしてそんな事をしたのかと考えていると、精神操作の可能性が浮上してくる。
その可能性は非常に高く、でなければ追い出された直後に、10人全員が、スイッチが切り替わるように新庄への怒りを感じなくなるなどあり得ないと思えた。
同時に、それだけの事ができる誰かが、意図して自分達を操ったと気が付く。
新庄がヤバい奴に狙われているかもしれない。オアシスにいる仲間がそれに巻き込まれるかもしれない。
彼らはそれを伝えたかったが、オアシスを追い出された今は出来ない事だと諦めそうになる。
「オズワルドの所に伝言でも頼むか。さすがにオアシスに戻りたいとか、言えるはずもねーし」
「だな。また顔を合わせれば、それをトリガーに操られるかもしれん」
そうして考えた結果、人に仲介を頼む方法を思い付き、新庄と縁の深いオズワルドを頼る事にした。
彼らは伝言を頼むと、そのまま砂漠の国から出ていく。
自分達がもう真面に戻ったと証明するように、新庄に勧められた、建設中の町を目指して。
「危ないなー。
ありふれた手法とはいえ、気が付かれるとはね。監視していて良かったよ」
彼らの伝言は、新庄に届かなかった。




