『一度ボコボコにして、上下関係を教えてやろうぜ』
朝一番で、新庄は転移者仲間を全員集め、裁判を開いた。
遠征中の者が多いので、この場にいる人数は少ないが、それでも全員が集まった。
「俺達は、酒を強請りに行っただけだ!」
「家の中に悪辣な罠を仕掛けやがって!」
「枷を外せ! 横暴だ!」
新庄をボコボコにして上下関係を叩き込もうとしたアンチ新庄一派。
彼らは新庄の手で転がされ、落とし穴で一晩過ごし、手枷足枷を填められた状態で朝を迎える事となった。
だがしかし、彼らは罪を認めなかった。
自分たちも美味い酒が欲しくなり、新庄の家に入っただけだと主張。不法侵入した事は棚に上げ、むしろ穴に落とした新庄を責めだした。
そうするだろうと思っていた新庄だが、実際にその光景を見ると、その醜悪さに顔をしかめる事となった。
「どうあっても、罪を認めないつもりか」
「声をかけても返事は無かった! だから家に入っただけだと言っている!」
「その時、俺は起きていたんだけどね。だから、落ちてすぐのお前らを拘束できたわけだ。そうでなければ、この対応も難しかったと思うよ」
「嘘を吐くな!」
「そうだ! 嘘を吐くな!」
「……嘘を吐いているのはお前らだろうが」
とにかく勢いで話を有利に進めようとするアンチ一派。
冷静さを保とうとしている、落ち着いた平坦な声で喋る新庄の声をかき消さんと、大声を出して誤魔化そうとする。
新庄と親しい者たちはそれを嫌悪の目で見ているのだが、その様子を気にもしていない。
アンチの中では、彼らは新庄に洗脳された、憐れな連中なのだ。その行動は新庄に操られており、正しい認識で物を見ていない。
だから「全部新庄が悪い」と、それだけで思考がストップしていた。
「証拠はあるのか!」
「そうだ、そうだ!」
「証拠も無しにこんな真似をして、恥ずかしくないのか!」
「そうだそうだ!!」
「俺たちを解放しろ!」
悪質なクレーマーとなったアンチ一派だが、騒ぐうちに、ようやく新庄が望んだ言葉を使った。
“証拠”と。
彼らの方から、証拠を要求してくれた。
「証拠、ね。証拠があれば良いのか?」
「そ……あっ!?」
「証拠があれば良いんだな?」
新庄は証拠という言葉に食い付いた。
すると何かに気が付いたのか、アンチたちは口を閉ざした。
何か証拠を掴まれている事を理解したのだ。
そこで、今さらでも、これ以上の失言を避けるために声を出さなくなった。
「沈黙は肯定と見なす。いいな」
反応を見せなくなった、見苦しくも足掻くアンチに冷たい目を向け、新庄は円盤を用意する。
『一度ボコボコにして、上下関係を教えてやろうぜ』
「出鱈目だ! でっち上げだ!!」
そして、そこに録音された会話を流し始めた。




