「ほーい。……恩着せがましいな。なんかムカつく」
新庄は、オアシスの雰囲気が悪くなってきた事を、肌で感じていた。
「だが、何もする気にならない訳だ」
「それは、無責任じゃないか?」
「いいや。自分の部下ならともかく、ただの居候の責任を背負おうとする方が無責任さ。
彼らの生活に責任を持つほど、俺たちは親しくない。違うか?」
しかし、新庄は動かない。
動く理由が無い。
「彼らもいい年をした大人だ。自分の行動には自分で責任を取ってもらうさ。
もっとも、盗みや刃傷沙汰のような事さえしないなら、取ってもらう責任も何も無いんだけどね」
みんな仲良く。そう言うのは簡単だが、実行するのは難しい。
感情的な問題で仲良く出来ない人間がいるのは自然な事で、本当に誰とでも仲良くできるのはほんの僅かな、ごく限られた聖人のような者だけだからだ。
残念ながら当然のように、このオアシスにいるのは、新庄含め全員が“ただの人”であった。
「人間は三人いれば派閥を作る。仕方がないのか」
「そういう事だよ。いちいち気にする程でもないさ。不穏な行動さえ、しなければね」
この集団に纏まりがないのは、共通した目的を持たないから。
そのため、内部分裂するぐらいはあるだろうと新庄は考えていた。
「そうだ。これは以前、糸嶺に話していた構想なんだけど――」
お別れの時は近い。
そう感じ取った新庄は、彼らの行く末の参考になるかと考え、連合が対ドラゴンにと作り始めた町の情報を渡す事にした。
連合が出資しているとはいえ、今は半分放置されている町である。
新庄がテコ入れしたが、足りないものも多い。ギフト能力者ならば食いっぱぐれる事もないだろう。
町も、国より町の利益を優先する、入植初期のアメリカのような土壌が育ちつつあった。
ドラゴンに挑む時に近くに彼らの拠点があれば、移動も楽になるしメリットは大きい。
考えてもらう価値はありそうだった。
亀裂を作っているのが新庄だけであれば、彼らが再び纏まるだろうという期待もある。
何もする気にならないと言いつつも、新庄は気を遣っていた。
「連合が作った町? マジでそんな町に行くと思ってるの、あの人?」
「いや、連合から遠く離れていて、影響が弱いらしい。
集団で出資した分、意見の優先順位が連合内部でごちゃついているのと、追加の出資があまりなくて、連合を無視してもやっていける状態になっているらしい」
「ふーん。その町を乗っとるとか、そういう話? 独立戦争でも仕掛けりゃいーの?」
「そうじゃなくて。ここの居心地が悪いなら、移住先として候補にいれておいてみたらどうかっていう、そういう話なんだ」
「……追い出そうとしてるのかよ、あいつは」
新庄の提案を聞いた、アンチ新庄の転移者は、新庄の言う事だから、悪い物の見方で話を聞いていた。
言葉を悪意で捉え、子供のように反発する。
まるで反抗期の中学生のようであるが、それをしている彼の年齢は三十近い。
相手をしている転移者、九重はその様子に苦い顔をした。
「ま、彼は命令も何もしないから。ただの提案として覚えておいてくれ」
「ほーい。……恩着せがましいな。なんかムカつく」
九重はこれで話は終わりと打ちきり、足早に去っていく。
それを見送った男は、つまらなそうに舌打ちした。




