「……ここが攻められない事を、祈ります」
新庄のオアシスは砂漠の国の中にあると言っても、砂漠の国に所属しているわけではない。
国民がたった一人の独立国家であり、砂漠の国とは同盟関係にあるというだけだ。
有り体に言って、砂漠の国や隣国から干渉される謂れは無い。
ただ、今回は隣国で犯罪者となった一団を匿っているので、少々面倒臭い話になる。
新庄は砂漠の国と国交を結んでいるものの、その他の国とは国交を結んでおらず、国として認められていない状態だ。
隣国にしてみれば新庄は言葉の通じぬ蛮族でしかなく、殺したところで何の問題も無い。
「ロンには、仲介役をお願いしたよ。
話し合い解決ができるのならばそれで良し。戦争になるなら一回地獄を見てもらう事になるだろうけど、こちらが負ける可能性は全く無いよ」
新庄は近隣では最も有名な転移者だ。
『砂漠の賢者』の異名を持ち、敬われると同時に畏れられている。
相手が話し合いに応じる可能性は高く、ロンを間に挟めばさらに話し合いだけで解決できる可能性が高くなる。
「その……地獄と言うのは?」
「このオアシスって、対ドラゴン様にガチガチに防備を高めてあるんだ。だから、せめてドラゴン10頭を同時に相手できるだけの戦力でも持ってこない限り、まず負けないっていう自負があるんだよ」
「えぇぇ……」
この話を聞いた戦闘部隊隊長の九重。
信じられないなどと甘い事は考えず、言葉をそのまま受け取った。
ドラゴンの森まで攻め入った新庄への評価は低くないし、実際に戦闘経験のある新庄が「ドラゴン10頭分」と言うなら、言葉通りであると判断した。
そうなると、九重は安心すると同時に好奇心に負け、聞かなければいいような話を聞いてしまう。
「その、防備と言うのは、一部でも聞いていい物ですか?」
「いいよ。うん。あちらに話を聞かれたところで問題無いからね。
まず、爆弾類をこっそりと地下に設置してあるのと、それと連動した落とし穴が多数。こちらの合図ひとつで、この辺りの砂漠は凄い事になるよ」
新庄は、地下に爆薬を仕掛け、即席の落とし穴を作れるようにしていた。
発破はどこからでも出来るようになっていて、ひとたび穴に落ちれば、周囲から砂が流れ込み、そのまま生き埋めになるという寸法である。
これは何度か実践して使える事を確かめてあるので、誤動作などが起きる可能性がまず無いと、新庄は胸を張る。
「あとは大型の大砲も配置したんだ。こちらはドラゴン相手に有効な一撃となるようなもので、人間相手ならオーバーキルもいい所だろうね」
新庄は空を飛ぶドラゴンを大砲で撃ち落としたが、その時、大砲の弾は肉に食い込んだりはしていなかった。
あくまで打撃ダメージを与えたのであり、新庄の考える有効打とは程遠い威力であった。
そこで大砲を大型化し、それに見合う爆薬を用い、威力と飛距離をそこそこ伸ばした。
砲弾の強度の問題があり、予定よりも威力を出せはしなかったが、それでも既存の大砲よりは強力である。
もう一つの欠点として、大きく重いので運搬がかなり大変という問題もあるが、それは新庄にとって問題とならないし、防衛設備としては照準を付けにくいというだけだろう。
あとはここにロケット砲も加わるのだが、人間相手に撃つつもりが無いので、これについては説明しなかった。
「最終手段としては、毒をまき散らす事になるかな。こちらのストックは愉快なぐらいあるから、10万単位で攻められでもしない限り、量は足りると思うかな」
そして新庄は、彼の考える“差し障りの無い範囲”でオアシス防衛網の説明を行った。
準備を万全に整えた新庄のトンデモなさに九重は言葉を失う。
自重しろとか、やり過ぎだとか、色々と言いたい事はあったが、今回は味方だからと心の中で唱え、なんとか気持ちを落ち着ける。
「……ここが攻められない事を、祈ります」
そうしてしばらくしてから、言葉を絞り出し、疲れたので休みますと言い残して帰っていった。
ここが攻め落とされないのは良い事だが、だからと言ってそんなものを平然と運用する新庄には怖れしかなかったのである。
「味方で良かった」
九重は、絶対に新庄と敵対しないようにと、固く誓った。




