「そうだな。本人は大したものでもないと考えているのだろうが、こんなものが出回っては他国の間諜や泥棒がそこら中に溢れてしまう」
町の領主、シドニーは新庄からの手紙に困った顔をした。
「オズワルド。新庄から頼まれた物だが」
「入手は不可能ですよ」
そして同じ手紙を受け取ったオズワルドも、どうにもならないという顔をしている。
「あの御仁は、少々物の価値を見誤っているようですな。こういった、隠密行動に使えそうな物が一般に流れているはずも無いでしょうに」
「そうだな。本人は大したものでもないと考えているのだろうが、こんなものが出回っては他国の間諜や泥棒がそこら中に溢れてしまう」
新庄の手紙には、ちょっと厄介な相手と敵対したので、足音を消したり、魔力の隠ぺいが出来るようになるアイテムが手に入らないかという相談がかかれていた。
ありていに言って、無理難題の類である。
「転移者たちが多くいるのだし、狩りでそういったものを使うのではないかと言っているが、そんな話は聞いていないな?」
「ええ。少なくとも、彼らがそれで財を成したという話はありませんね」
シドニーは念のためにオズワルドに確認を取るが、隣国で商売をする彼もそんなものの存在は寡聞にして耳にした事が無い。
もしかしたら自分たち専用として作っているかもしれないが、それを手放したという様子もない。
物が物だけに、作れる事が知られれば騒動になると、分かっているからだろう。
隣国の転移者たちだが、ギフト能力の維持程度の狩りしかしない者が増えているため、冒険者稼業に消極的な者の割合は増えている。
もともと戦う事が好きな人間という訳でもなく、生活のため、必要に駆られてモンスターと戦っていただけなのだ。
戦わずに生活できるようであれば、その方が良いに決まっていた。
そういった事情を知るオズワルドでも、彼らが使わなくなった冒険者装備にそんな効果がある物は無かったと記憶している。
もしもそのような物があったなら、オズワルドが覚えていない筈もなかった。
「では、我らは手を貸せないと返事をしておこう。
期待に応えられないのは無念であるが、出来んものは出来んのだ。嘘を吐く訳にもいかないからな」
「こちらは、手持ちが無いので噂話を集めておくと言っておきましょう。心当たりもありませんので、時間がかかるとも」
彼らの手元には、加倉井や荻からの手紙もある。
新庄が無茶をしないように、何かあったら教えて欲しいという、お願いの手紙だった。
「こちらにも、返事は必要だな」
「彼らも親を心配する歳になったようですからな」
子供というのは、小さいうちは親の心配などしないものだ。
親がいるのが当たり前で、何事も無ければその状態がずっと続くと無条件で信じているし、その何事かが起きるなど想像もしない。
そして、過保護であったり干渉してくるような親から離れていこうとする。
歳を取らねば、親とは心配してもらえない。
二人にも子供がいるので、親としてそのあたりは実感していた。
オズワルドの場合は孫がいる年齢なので、その先までも経験済みなのである。
だからこそ、新庄達の関係を微笑ましく思う。
「今度、たまには子供らと遊んでやるか」
「なら私は孫たちの顔でも見に行きましょう」
新庄はすぐに動けないだろう。
そう考えた二人は、自分の家族の事を思うのだった。




