「凄いですね。揺れをまったく感じません」
ドラゴンの背中に乗る。
それは乗せる側だけでなく、乗る側にも覚悟が求められる。
例えば騎兵の死因だが、彼らは落馬で命を落とす事が多いという。落馬の衝撃と、後続の踏み潰しで命を落としてしまうのだ。
新庄が乗るのは首の付け根の辺りで、高さは2mほど。馬に乗るよりも高い場所であるし、鞍も無い。
危険度はかなり高かった。
もしもドラゴンが急に振り落とそうとすれば抗うことは難しく、落ちてしまえば踏み潰される事になるだろう。
つまり、首という弱点を晒すドラゴンだけでなく、新庄もドラゴンを信用しないといけないのだ。
「では、よろしくお願いします」
「おう。任されよ」
互いに躊躇が失礼になるのなら、警戒する素振りを見せない。
新庄は笑ってドラゴンの首に跨がり、ドラゴンも笑ってそれに応える。
こうして新庄はドラゴンの王と顔を合わせに向かうのだった。
ドラゴンの移動速度は、新庄の歩きとは比べ物にならない。
時速で言えば60kmは出ていて、その移動の早さに新庄は舌を巻く。
しかも上下の揺れがまったく無いので、酔いを感じる事もない。
走っていたのは獣道で、何度も移動して多少は均されていたが、それでもデコボコとした道なのに、である。
この揺れの無さは、ドラゴンが新庄に気を遣っているためだが、単に気を遣えば出来るというものではなく、ドラゴンの高い技術が窺えた。
「凄いですね。揺れをまったく感じません」
「上下の揺さぶりは、脳みそのある生き物ほぼ全てに有効な攻撃であるからな。我とて例外ではなく、地と平行を保つのには慣れておる」
「分かっていても人間では難しいのですけどね」
「足が二本では仕方があるまい」
なお、人間が歩くとき、普通は上下に数cm動くのだが、見ている人は揺れを感知して人が歩いている事を知るようになっている。
この揺れを無くして歩行を察知されなくするのが「縮地」と言われる技術の一端である。
有り体に言えば、理論が分かっても実践できない超技術である。
しかしドラゴンは四つ足のため、人間よりも簡単に揺れを抑えられると言う。
確かにその通りと思わされるのだが、実際は足と上体の移動があるため、難易度的にはそこまで大きな違いはない。
新庄は改めてドラゴンの能力の高さを理解すると同時に、自分の中にあった疑念が確信に変わるのを感じるのだった。




