「どうにか――は、俺が動かない方が良さそうだな」
「そういやぁ、蒸気機関に手を出しているって話だったな」
新庄が何かする前に、問題は解決していた。
やった事が徒労に終わったわけだが、新庄はまだ計画を他人と相談する段階だった。
考え様によっては、無駄な手間をかける前で良かったと見るべきだろう。特に、他人を巻き込んだ後に中止となると後処理が大変だからだ。
「加倉井の話だとまだ時間がかかりそうな雰囲気だったが、部外者相手だから情報も制限されていたんだろうな」
一応、蒸気機関に関しては、加倉井を通して話を聞いていた。
ただ、加倉井は羽衣の友人ではあるが、重要な情報を開示していい立場になく、詳細は教えてもらえなかったようだ。もしくは、加倉井が情報を止めていた可能性もある。
“身内だから”と安易に情報を拡散しないのは、新庄的に好感度が高い。公私の区別がつかない人間よりも信頼できる。
あちらでは魔石を用いた道具の開発もしているというし、ずいぶん技術的な進歩をしているようだった。
しかしそうなると、1つ困った事がある。
隣国が砂漠の国よりも力をつけ、パワーバランスが崩れるかもしれないと、そういった問題が出てきそうだからだ。
新庄が居る砂漠の国も、今は以前よりも強くなっている。
しかしそれは新庄に依存した強さのようなもので、しばらくすれば落ち着く仮初の隆盛だ。
転移者が居なくなっても残りそうな技術を擁する隣国の方が、長い目で見れば力を付けるだろう。
「どうにか――は、俺が動かない方が良さそうだな」
新庄は一瞬、自分の用意した企画書を見る。
そして、不要になったそれを仕舞い、苦笑いする。
隣国との関係は、悪いものではない。
ならば、地球のどこかの国のように盗むことをせず、外交で技術を入手して格差を埋めるのが正しいやり方のはずだ。
もしくは、この国の技術者と荻たちが自力でどうにかする。
鉄道の話は出たが、紡績機の話は出ていない。アドバンテージは相手にあるが、まだ追い付けないほどの格差には至っていない。
今から頑張れば、きっと何とかなる筈で。
その時に、新庄の手助けは必要とされていないだろう。
自分が頑張らなくても大丈夫。
そもそも、自分の力は、それがギフト能力であっても、世界を大きく変えるものでもない。
新庄はそうやって自己評価を落とす事にした。
これからはのんびりできるだろうと、新庄は顔見せだけを行い、オアシスの我が家に帰るのだった。




