「私は、話し合いがしたいだけだ」
買い出しを終えた新庄のところに、領主の使いがやって来た。
「主がシンジョウ様とお話ししたいと申しています」
有無を言わせぬ態度ではなく、あくまでお願いの形をとった依頼である。命令ではない。
なぜ自分に領主の使いがやって来たのか?
それは分からなかったが、新庄は取り敢えず頷いた。
断る理由が特になく、上手くやれば大きな商談もできるだろうからだ。
何より、加倉井がこの町でしただろう、やらかしのアフターケアができるかもしれない。
勝算はある。
必要なものは、勝負に挑む気概だけでいい。
新庄は、つい数日前に領主になったばかりの男と会うことにした。
「よく来てくれた。私はこの町の領主で、シドニーだ。
楽にしてくれたまえ」
新庄が通された部屋には、一人の男が椅子に座っていた。
見た目からして重厚な印象を与える大男だ。
砂漠の男らしい、赤銅色の肌にチリチリの頭。服の上からでも分かる鍛え抜かれた筋肉の自己主張が激しい。
ただ、瞳だけは理知的な印象を与える冷静さを湛えている。筋肉だけの男ではないと、新庄はやや気圧された。
新庄は勧められるままに椅子に座る。
座った椅子は、シドニーの対面である。
「先程も言ったが、楽にしてほしい。とって食うわけではない。私は、話し合いがしたいだけだ」
シドニーは、新庄に楽にするように言うが、それで楽にできるものでもない。
ただ、このままでは話し合いにならないので、新庄は肩の力を抜いたように見せた。
「いきなり話し合いと言われて困惑しているだろう。だが、シンジョウにも関わりや利益がある話ばかりだ。
まずは、先日のカクライの件。
彼女はシンジョウの身内なのだろう。彼女から何か話は聞いているかな?」
「いいや。何も聞いていないし、聞き出す気はないな」
シドニーは、身分は貴族である。
普通に貴族や大商人と言われる連中の相手をするなら遠回しな言葉で婉曲的に話すところを、新庄が平民だろうから、いきなり用件を切り出した。
新庄と加倉井の関係については、まだ憶測ではあったがあえて断定的な口調で話し、「こちらは情報をつかんでいるぞ」といった風を装う。
新庄はシドニーの言葉がカマかけであると分かっていたが、否定する必要もないので、それを肯定し、話を進めることにした。
ここからは、狸と狐の化かし合いである。




