「派手な何かがあれば、そっちに目がいく、かも?」
他所の国で派手に動いた新庄らは、ちょっとした英雄扱いとなった。
最後は国に追われて逃げるように出ていったが、それも“砂漠の国の”英雄としては問題ないらしい。
自国の王を馬鹿にすれば不敬罪で首を切られるが、仲の良くない国の王様であれば、むしろ失点を誇張するぐらいでちょうどいい様だ。あの国はその後、ボロボロにされた事もあり、愚王と喧伝する材料は揃っていた。
「蝗害を魔法で消し飛ばすとか、スゲーよな」
「まだ未婚の女なんだろ。嫁にしたいな」
「お前じゃどうやっても無理だろ」
一番人気は加倉井で、彼女の率いる仲間たちは女神のごとく扱われている。
やはり派手な召喚魔法でバッタを薙ぎ払ったのが良かったようだ。
「さすがは賢者様」
「あの方がいるうちは、この国は安泰だな」
次いで人気があったのが、新庄だ。
元から賢者として知名度が高く、今回も移動や生活面での支援と、縁の下の力持ちとして評価されている。
「国の中枢から情報を抜いたって事か?」
「恐ろしいな。今は味方である事に感謝しよう」
荻たちも役柄としては美味しい立場だったので、人気がある。
蝗害への対応は地味で評価されていないが、新庄たちを捕らえようとした国の魔の手から皆を救った部分で好感度を高めている。
新庄達だけでなく、国王のロンも評判である。
蝗害という恐ろしい災害に対し、いち早く新庄たちに連絡を取り、対応をお願いしたのが良かったのだ。彼は賢王、賢者の友人と言われるようになっていた。
国民にしてみれば結果を出せる王である事が大事で、蝗害の被害を他所の国で食い止めたロンは、彼らにとって良い王様なのだ。
連合の船団を追い返した実績も相まって、近年で一番の王様だと言われるようになりつつある。
ただ、人気があるのは良い面だけではなく、悪い面も多い。
この国で日本人の顔は分かりやすく、加倉井たちは町で人に囲まれる事が増えた。
ついでにナンパ、求婚してくる男が鬱陶しいほど湧いて出て、まともに休日を過ごせなくなりつつあった。
仕方がないので、羽衣のいる隣国まで行って、ようやく休暇を堪能している。
荻たちは村を作るために頑張っていたのだが、それよりも王宮で国王直属の騎士にならないかと誘われていた。
荻たちのような戦力を遊ばせておくのは勿体ないという話だが、そんな立場になってギフト能力を維持できなくなっては本末転倒である。
そういった誘いを断った事で、荻たちの評価は、王宮に限定して下がってしまった。
他にも理想の押し付けなど、小さなデメリットに悩まされ、加倉井や荻たちはストレスを溜め始めていた。
新庄は表に出ない事の方が多いので問題なかったが、加倉井と荻たちは人気者のマイナス面に潰されそうである。
オアシスという隔離された場所に居るうちは良いが、このままでは外を出歩くのが嫌になりかねない。
だからと言って、評判を落としてしまうのも良くない対応だ。人気者も面倒だが、悪評まみれの状態もデメリットが大きい。
最善は周囲の関心が無くなる事で、評価を落とす事ではないのだ。
「吟遊詩人が歌っている以上、噂の上書きも難しいな」
加倉井たちの人気と、その関心の高さは、吟遊詩人による情報の拡散が原因だ。
流浪の吟遊詩人をどうにかするのは難しく、新庄であっても対応は難しい。
彼らも生活がかかっているので、最新の、人気のある話を歌いたいのだ。それに一人二人を説得したとしても、大勢には影響が無い。
「派手な何かがあれば、そっちに目がいく、かも?」
自分が巻き込んでしまった加倉井たちを助けるため、新庄は“派手な何か”を計画するのであった。




