「蝗害からみんなを守りました。そして俺たちはその犠牲になりました。それは違うだろう」
熱気球は問題なかった。
加倉井は本人もあまり意識していなかったが、高所恐怖症だったらしく、熱気球に乗って飛ぶことはできなかった。
よって、加倉井は地上戦力として頑張る事になる。
こればかりは事前に想定できない、ちょっとしたトラブルだ。
魔法攻撃をしているからだろう。熱気球にバッタが取り付くといった事もなく、問題なく運用された。
これによりバッタの殲滅はより進むことになる。
ただ、バッタの数が多すぎて、減っているようには見えなかった。
一方、新庄たちの土地の浄化も進むが、こちらは進んだようで進んだように見えない。
と言うのも、汚染地域は現在進行形で広がっているので、どれだけ浄化を進めても終わりが見えないのだ。
これはバッタの駆除が進まないと状況が変わらないだろう。
もっとも、広がらないのであれば、それはそれで一つの成果であるのだが。終わらない作業は、新庄たちの意欲を削いでいく。
この良くない状況が変わったのは、新庄達が動き出してから数日後の事である。
加倉井達による追い込み、移動方向の誘導により、バッタは拠点の近くでウロウロする事になった。
新庄が再生した森もあるので、バッタが残る土壌があるのだ。
全員の頑張りによって、蝗害の押さえ込みは完璧である。
バッタは当初の六割まで勢力を落とし、被害よりも再生の速度が釣り合い始める。
ただ、バッタの密度が下がり、駆除はややペースを落とし始めた。
こうなると、作戦終了までの期間はこれまでの三倍程度が予想され、現実的ではないと考えられた。
時間をかけると、現地政府が新庄たちに要らぬちょっかいをかけてくるだろうからだ。
蝗害の被害を抑えている“功績”はあえて無視して、国内で勝手に動いているという“不法行為”を喧伝して、新庄たちを良いように使おうとするだろう。
それが可能かどうかも考えず、身勝手に手を出して、返り討ちに遭って、理不尽に憎まれる。
悲観的かもしれないが、新庄はこういった嫌な展開を想定していた。
「つまり、そろそろ撤退するのか?
でも、蝗害はまだ残ってるけど」
「このまま頑張っても、確かに蝗害はどうにか出来るんだけどね。けど、俺たちだけで頑張るのも大変だから。
蝗害からみんなを守りました。そして俺たちはその犠牲になりました。それは違うだろう」
「蝗害で被害が出るのを放置するのですか?」
「違う違う。バトンタッチするんだよ」
そんな会話も挟みつつ、12日目。
遠方より、援軍が来る。
「真姫菜ちゃーん!!」
「丹羽!?」
テイマーの羽衣丹羽、対蝗害作戦に参戦。




