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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
閑話⑦ 異世界ラーメン繁盛記
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「うっし! 店の前の掃除、行ってこい! それが終わったら仕込み始めるぞ!!」

 火野は、惜しい事をしたと思った。

 新庄のラーメンは、火野が求めてやまない『醤油』の味がしたからだ。

 隠し味、ほんの僅かな味の調整に使われているだけだが、火野の舌は誤魔化せない。


「麹が手に入らんからなぁ」


 火野も醤油欲しさに努力している。他の転移者仲間も同じだ。

 だが今のところ、成功したという話は聞かない。全滅しているのだ。出来るものは、いつもしょっぱい腐った豆である。


 麹を分けて欲しいと言うのは簡単だが、きっと相手も苦労の末に作り上げたはず。

 軽々に「くれ」などとは言えない。

 いつか自分の力で掴み取るだけだと決意を新たにする。



「それにしても、“新庄さん”ね。

 あいつら、砂漠の国の賢者のお仲間か」


 新庄の噂は、国を二つ跨いでいる火野の耳にも入っている。

 国一つを相手に喧嘩した転移者がいると火野は聞いていた。

 似たような事をした火野は、そんな新庄に一方通行の仲間意識を持っていた。


 荻たちがラーメンを食べる間に口にした「新庄さん」とは、きっとその新庄なのだろうと当たりを付ける。



 国を跨ぐ交易は難しい。

 中世におけるインドの胡椒ではないが、小瓶ひとつに金貨が必要になる買い物となりかねない。

 そんなものを買おう、料理に使おうなどと考えるほど、火野の経済観念は狂っていない。


 砂漠の向こうに、火野の知らないラーメンがあるのだから、食べに行きたいとは思う。

 しかし自分がそこまで旅をするとしても、命がけなので、相応の能力と覚悟が求められる。

 残念ながら、火野はギフト能力を早々に捨てているので、旅に耐えられない可能性が大きかった。


 「こんな事になるなら」と思わなくもないが、モンスターと戦う理由を持たない火野にしてみれば、モンスターと戦うための力を持ち続ける気にならない。

 選択した結果に後悔しても、やはり同じ状況になれば、同じ事をするだろうと火野は考える。



「弟子が育って、店を任せられる様にするのが先だな」


 色々とゴチャゴチャ考えたが、今の火野は身動きがとれない。

 店と暖簾を守るため。何よりも客のためにスープを煮ないといけないからだ。


 もし火野が何かするにしても、自分のバックアップができる弟子を育てるのは最低条件だろう。



「店長、おはようございます!」

「うっし! 店の前の掃除、行ってこい! それが終わったら仕込み始めるぞ!!」

「はい!」


 幸い、経験の足りない弟子にも、やる気だけはある。

 火野はラーメン屋の店主として、弟子の尻を蹴りつつ、様々な事を教えるのだった。

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